以前,次のような記事を書いた.
sokrates7chaos.hatenablog.com
このブログのアクセス先の1割を占める程度には人気があるらしい*1.だが,書いてから時間が立ちすぎてしまい,また,その間にもさまざまな新しい本が出てきたこともあり,少し手直しをしたいと考えるようになってきた.そんなわけで,この記事はそのリバイバル版である.
リバイバルにあたって,まずリストの範囲を論理学とその周辺領域の本全体に拡大することにした.また,現在手に入りにくくなった本などはリストから外すことにした.この記事にあげる本は,何らかの形でわたし自身が手に取ったことのあるもの(読んだとは言っていない)に限定している.
すべての本に対してコメントをしきれていないので,周りからサボりを指摘されやすいように,公開しながら作業することにする.暫定でもコメントの終わった本には⛄をつけることにする(2022/08/07 追記).
一般書
この節では論理学の一般書を紹介する.
推論や根拠ある論証について扱う学問領域を論理学と言う.
かんどころシリーズのひとつ.このシリーズのコンセプトとして「入門書の入門」みたいなものを作りたいというものがあるらしい.まさにそんな感じの本である.
「これだけでは何かをやるには圧倒的に足りない.でも何を勉強したらよいかの道しるべにはなる」というのがざっと目を通した感想.詳しいことは他書に譲りまくっているので,この本だけ読んでもわからないことは多いと考えられる.漠然と「数理論理学」がやりたいと思う人が道しるべに読んで「ここを深く知りたい!」となった話題を参考文献で詳しくやるという使い方が最適解ではないか.
数学基礎論界隈のレジェンド竹内先生の集合論の入門書.最初の方は初学者にもわかりやすく丁寧に書いてくれている.が,最終章周辺は明らかにテンションの上がった竹内先生の高度な思考が垂れ流されているので,その辺りの話題を初学者は理解しようと思って読んではいけない.この章については完全にタイトル詐欺である.第4章まで読んで集合論に興味を持ったら, 集合論の入門書のどれかを一冊読んだほうが良い.
一般書のくくりにしたが,明らかに一般書の範疇を超えた内容を扱っている.どの層を想定して書いたのかよくわからない.ただし,この本をきっかけにコンピュータサイエンスの数学を始めた人間を何人か知っている.
ゲーデルの不完全性定理の誤用についてまとめた本.読んでいておもしろかった記憶があるが,最後に読んだのがだいぶ前なので,何が書いてあったのか全然覚えていない.
この節では非形式論理学の本を紹介する.
現在,日本で単に「論理学」と言った場合,論理関係を記号化して考察する「形式論理学」を指す事が多い.しかし,形式化せずに論理関係,帰納的論証や論理的誤謬などを考察する分野も存在する.このような領域を非形式論理学という.クリティカル・シンキングと呼ばれることもあるようである*2.
非形式論理学においては,形式論理学ではなかなか扱わない「帰納的推論」も取り上げられる.一般に科学における推論に興味のある方は非形式論理学を学んだほうが得るものは多いかもしれない.
最近出版された非形式論理学の和書.帰納的推論に対する記述が豊富である.
非形式論理学に馴染みのないわたしにも読みやすく一ヶ月位で読めてしまった.ただし,一部演習問題で「あれ?」と思った箇所もあった*3.著者の独自用語などは断ってから使ってくれているので,おそらく誠実な方と考えられる.
推論に関わるためか,最後の節は統計の話をしている.だが,記述統計学の域は出ておらず,推計学や因果推論などの話はおまけ程度にしか出てこない.続刊が予定されいているそうなので,続刊で扱ってくれることを願っている*4.
この節では主に演繹以外の推論を主なテーマとする本を紹介する.
演繹以外の推論をすべて「帰納的推論」とまとめる立場と,(先の意味での)帰納的推論のうち「アブダクション」は他の推論方法と違うとして区別して,推論方法は「演繹・帰納・アブダクション」の三種類であるとする立場(三分法)がある.この記事においては三分法の立場を取ることにする.
アブダクションとはアメリカの哲学者 Charles Sanders Peirce によって考案(発見?)された推論方法である.「最良な説明への推論」と呼ばれることもある.
この本は Peirce 研究で有名な米盛裕二氏によるアブダクションの解説書である.
この節では非古典論理にフォーカスを当てている本を紹介する.
和書で関連性論理についてまとめてある本はこの本くらいではないか.
様相論理
この節では様相論理にフォーカスを当てている本を紹介する.
通称「様相論理の青い本」.様相論理以外のことも書いてあるのだが,なぜか「様相論理」の入門書として薦められがちなイメージがある.そのため,分類をここにした.
実のところ,様相論理の勉強に使ったことはなく,導出原理の勉強に使った.
通称「様相論理の魔術書」(おそらく,本のデザインのため).「様相論理の黒い本」とも呼ばれる. 数学基礎論サマースクール2015の講演内容をまとめた本.
様相論理でわからないことがあるととりあえず,この本の第一章に目を通す.
様相による真理論に入門するならこの本の第4章が良いと考えられる.
modal \(\mu\) 計算に詳しい唯一の和書.日本において modal \(\mu\) について学習するなら,まずこの本を読む必要がある時代が来るのではないか.
2015 年頃に様相論理の入門書として薦められたのだが,まだキチンと目を通していない().薦めてくれた S 先生,申し訳ない……
様相論理の辞書みたいな本.
証明論
この節では証明論が主なテーマの本を紹介する.
数学基礎論界隈のレジェンド竹内先生の証明論の本.竹内予想の萌芽が見て取れるらしいが,正直良くわからない.
今読むなら下の本のほうが良いと思う.
証明論の基本的なことがまとまっている本.
モデル理論
この節ではモデル理論が主なテーマの本を紹介する.と言いつつ,不勉強でこの分野についてわたしはほとんど知らない.
モデル理論の定評のある教科書らしい.
計算論
この節では計算論が主なテーマの本を紹介する.
定理証明支援系・自動証明
この説では定理証明支援系・自動証明についての本を紹介する.
Boyer-Moore の自動証明器を下敷きにした J-Bob なる定理証明支援系についての本.Boyer-Moore の自動証明器は,帰納法を含む量化子なしの一階述語論理のための自動証明器で,Lisp を下敷きに実装されている. ACL2 は Boyer-Moore の自動証明器の後継の自動証明器であり,かつそれを記述する言語である*5.J-Bob は ACL2 と Scheme によって実装されており,読者はそのどちらかの実装を使って実際に動かしながらこの本を読むことになる.そのため,この本を読むにあたって,最低限 Lisp の CAR, CDR, CONS くらいの知識が要求される.
などといけしゃあしゃあと書いてみたが,自動証明器の研究の全体像がいまいちはっきりと私には見えていないので,この本が自動証明機の入門書として適切なのかどうかはよくわからない.ともかく,よく良書として挙げられる.
Amazon で品切れでも版元では十全にある場合が多いそうなので,この本については版元から直接手に入れたほうが良いかもしれない.https://www.lambdanote.com/products/littleprover
原書はこちら→The Little Prover (The MIT Press)
その他,論理学に関係はあるが分類に困った本
この節では,論理学に関係はあるが,分類に困ってしまった本を紹介する.




通称四色ゲーデル.この記事の元記事では入門書に突っ込んでいたが,入門書にしては話題が広すぎるし,難しすぎるので,こっちに持ってきた.
長らく4巻が品切れだったが,最近再販された.
数理論理学周りの位相や束論の話をまとめた本.証明がとても読みづらく行間も広いので,ある程度数学ができて自力で行間を埋められる人のみが読める本と考えられる.
通称 SGL.幾何学と数理論理学における「層」という概念について述べているらしい.
圏論的論理学をやるにはこの本が現状必須らしい.
番外:読むべきではない本
この節では「論理学」の本ではあるが,読むことをとてもおすすめできない間違いの多い本をあげる.
明らかに必要最低限のことも理解できていないまま書いている. ベン図をわざわざ書いてストラクチャを定めず真偽を議論し始めた瞬間, この本をぶん投げた. 有名なサイエンスライターの本だが, こういう悪質な本を書くのはいかがなものかと思う. Kindle 版が出てしまったらしいので被害者が増えないことを祈る.
参考になるリンク
この記事と似たような試みをしているサイトを紹介する.