仮面の日曜数学者です.
約一か月ぶりの更新です. 新しい年度が始まってバタバタしてました.
知り合いの中学生から聞いたのですが, 昨今の数学の先生の中には「数学の定義は一字一句全く同じでなければならない」と思い込んでいる人がいるそうです.
その子が出会った事案としては素数の定義についてテストで「1より大きい自然数の中で約数を1とそれ自身の他に持たないもの」と答えたところバツをもらったそうです. なぜかというと素数の定義は「1より大きい自然数の中で約数を1とそれ自身のみであるもの」と教えたからだそうです. とても悲しい事件です. 国語力の低下が叫ばれる理由もわかります.
まぁ, 学校の数学の先生が数学をわかっていらっしゃらないのはいつものことなので, そのことを批判する気はありません*1が, 今回は数学における「同じ」とは何かについて少し書いてみようと思います.
同じ対象だけれども違う定義があるものとして, 自然対数の底$e$が最初に思いつきます. もちろんここでいう「定義が違う」とは先の例の教師のような日本語レベルのゆれの問題ではありません.
私が知っているだけでも次の3つがあります.
1. 次の等式を満たすような$e$を自然対数の底という. \[\lim_{h \to 0} \frac{e^{1+h}-e^1}{h} =e. \]
2. 次の極限\[\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac1n \right)^{n} \]の行き先を自然対数の底という.
3. 次の級数\[\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}\]の行き先を自然対数の底という.
これらの定義が「同じ」であるというのは「論理的に同値である」からです. すなわち,
定義1. $\Leftrightarrow$ 定義2. $\Leftrightarrow$ 定義3.
が成り立ちます*2.
同様にして論理的に同値であれば同じものを「定義」できます. 素数も「自然数のうち約数を2つのみ持つもの」などと定義してもよいわけです.
そのように多くの定義を持つものは多くの場合「抽象的」なものであることが多いです. たとえば, 群, 位相空間, 連続写像etc.
なぜそのように定義が複数あるものがあるのか? おそらく「同じ構造」を持つことがわかっていれば, 数学的には同じ対象で, どの定義から話を始めるのが一番楽かということなのでしょう. 定義はもちろん大事ですが, それが表す対象がなんであるかということが最も大事だと思います.
そういった数学的対象がどこにいるのかという問題は難しいのでまたの機会に.
そんなわけでGW楽しんでいきましょう.
ところで, 自然数の定義に0は含むべき異論は認めない.