Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳

書きたいことを書いている.駄文注意.

【備忘録】数学英語文書まとめ

この記事は さいえんSlack Advent Calendar 2020 - Adventar の 25 日目(最終日)の記事です.24 日目は Tomoki UDA さんの担当でした.
さいえんSlackは Slack を中心に活動している科学に興味がある人のためのゆる〜いコミュニティです.詳しいことは以下のリンクを参照してください.
scienslack.github.io

この記事では英語で数学についての文章を書くための How to 文書で役に立ったり有名だったりするものを備忘録を兼ねて紹介する記事です.基本的には修論や博論,投稿論文などを書く際に参考になるものを紹介していきます.参考になれば幸いです.

1. 英語一般

英語一般についての文書で文章を書くときに参考になったものを紹介します.

[1.1.] 徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

高校生にもおなじみの文法書ですね.すこしでも怪しいところがあるたびに開いています.最近,持ち歩くのがしんどくて,電子版を紙版とは別に購入しました.これは正解で,文字列検索できるようになって効率が上がりました.

[1.2.] 【DVD-ROM付】オックスフォード現代英英辞典 第9版

知り合いに誕生日プレゼントをねだったら買ってもらえました.定評のある英英辞典です.とても役に立っています.語法が怪しかったらまずこの辞書でそのような語法があるかを調べてから使っています(念の為,Google 検索もかけますが).

2. 科学英語一般

この節では科学英語一般についての How to 本を紹介します.科学英語独特の慣習や科学英語だと許される表現などがあるので,上とは別で使っています.

[2.1.] English for Writing Research Papers (English for Academic Research)

最近新版が出たようで,表紙のデザインが変わっていてびっくりしました.私は下のようなバージョンを持っています.また,日本語訳も出ていてそちらも持っています.現題に比べるとタイトルがちょっとアレな感じなのはご愛嬌.医学系の論文からの引用が多いような気がしますが,論文全体の構造などについてはこれがとても参考になりました.最後に科学論文で使える表現集がまとまっているのも使いやすいです.

[2.1.1.]English for Academic Research: Grammar, Usage and Style: Usage, Style, and Grammar

上の姉妹編で主に文法や語法にフォーカスが当てられています.語法に迷ったときなどにたまに参照します.

[2.2.] 理科系のための英文作法―文章をなめらかにつなぐ四つの法則 (中公新書)

いろんなところで取り上げられて有名になっている本と若干タイトルが似ていますが,違う本です.こちらも名著で,特に第一章は接続詞に悩んだときにとても参考になりました.ただ,「"Thus" を頻繁に使うべきではない」など数学英語とは相容れない部分があることに注意して読まなければなりません.

[2.3.] 英語論文 すぐに使える表現集

たまに参照します.日本人が書いているので,「これ英語だとどう表現するんだ?」となったときに助かります.

[2.4.] 理系のための英語論文執筆ガイド―ネイティブとの発想のズレはどこか? (ブルーバックス)

たまに目を通すと勉強になります.
[2.4.1.] 間違いだらけの英語科学論文 失敗例から学ぶ正しい英文表現 (ブルーバックス)
これも合わせて読むと面白いです.

3. 数学英語

この節では数学英語一般についての How to 本を紹介します.科学英語の中でも数学英語は独特のようで,一般に科学論文だとやめるように言われることが許容されるので,たまに戸惑います*1

[3.1.] 数学のための英語教本

最近出た本ですが,すでに名著の風格があります.テキスト型の構成の本なので,頭から一節ずつ読むことを推奨します.巻末には数学英語表現早見表もついているので便利です.もっと早く出版してほしかった……

[3.2.] 数理科学論文ハンドブック―英語で書くために

図書館で偶然見つけたのですが,辞書的に使うならこっちのほうが良いかもしれません.原著の新版が最近出たようです.

Handbook of Writing for the Mathematical Sciences

Handbook of Writing for the Mathematical Sciences

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[3.3.] Mathematical Writing (Springer Undergraduate Mathematics Series)

用例が多く載っているので,便利です.

[3.4.] A Primer of Mathematical Writing: Being a Disquisition on Having Your Ideas Recorded, Typeset, Published, Read, and Appreciated (Monograph Books)

まだきちんと目を通せていませんが名著だそうです.第二版のプレプリントarXiv にあがっています.
[1612.04888] A Primer of Mathematical Writing, Second Edition

[3.5.] 数学版 これを英語で言えますか? Let’s speak Mathematics! (ブルーバックス)

数式の読み方が書いてある本です.数式を英語でわざわざ読み上げることが稀なので,ほとんど使ってません.英語で発表するときにもしかしたら使うかも?

4. 組版関連(LaTeX 関連)

この節では数式の出てくる文書独特の組版事情に関連する文書,また数式組版をするためによく使われる LaTeX に関連する文書を上げます.組版というのはざっくり言うと文書にするときの文字や記号の並べ方のことです(ここで詳しい人に刺される).数式の組版には独特の慣習,規則がありますので,それに従わなくてはなりません.

[4.1.] 小田忠雄,「数学の常識・非常識—由緒正しい TeX 入力法」,数学通信, 第 4 巻第 1 号, 1999 年 5 月, pp.95–112.
ありがたいことに東北大学が無料で公開をしてくれています(合法のはずです).http://www.math.tohoku.ac.jp/tmj/oda_tex.pdf
必要最低限の組版ルールの解説がされているので,これを読むだけでもだいぶ LaTeX のコードがきれいになります(OHP とか時代に合わない話も載ってしまっていますが).

[4.2.] Michael Downes, Barbara Beeton,"Short Math Guide for LaTeX"
AMS のパッケージを使うための注意事項が書いてあります.AMS のパッケージを使わずに数学についての文章を書くことはまず考えられないので,読んでおくべきだと考えられます.TeX Live を使っている方は Power Shell やターミナルで

$ texdoc short-math-guide 

とすればいつでも読めます.texdoc というコマンドについては,LaTeX 初心者が知るべきただ一つのコマンド - Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳という記事で以前紹介をしました.

[4.3.] [改訂第8版]LaTeX2ε美文書作成入門

かの有名な美文書作成入門です.「LaTeX の入門書で良いものは?」と聞かれたら,ほとんどの人はこれを挙げる気がします(たぶん).最新版まだ読んでないんですけどね……

[4.4.] 独習 LaTeX2ε

某 W くんから誕生日プレゼントにもらってすごい助かっています.LaTeX 関連の書籍で一番わかりやすい本ではないかと思います(ただし,わたしにとっては).大概,変なところで詰まったらだいたいこれを見ると解決します(マニアックなことしない限り).

[4.5.] 数式組版

数式組版

数式組版

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数式組版についての唯一の和書である説……
読んでいるとたまに悪い例と良い例の違いがわからなくて発狂するときがあります.数式組版の深さを感じるための本です.

*1:この関連で最近私の周りで話題になったのが慣用句 "such that" です. "A such that B" で 「B を満たす A」を表現することが数学ではよくあります.しかし,この用法は一般的な辞書・文法書には見られない用法です(少なくとも私の手元にあるもので書いてあるものは確認できなかった).数学英語独特の表現ではないかと推測されます(確証は持てませんが).

LaTeX 初心者が知るべきただ一つのコマンド

という煽りタイトルで Texdoc を紹介する記事を書く宣言を何故かしてしまったので,書きたいと思います.後悔も反省もしている.たぶんみんな妖怪かスタンド攻撃のせい.

 この記事は TeX & LaTeX Advent Calendar 2020 - Adventar の 24 日目の記事です.23 日目は munepi さんの Markdown原稿からPandocしてLaTeX組版する本作り - Qiita という記事でした.明日は zr_tex8r さんの 徹底攻略! pxchfonを使いこなそう - Qiita という記事です.

 多分このアドベントカレンダーの参加者の中で一番の素人です.なんか雪だるまが回転するのを眺めていたら参加してました(なにを言っているのか自分でもわかりません).なんで僕は TeX に詳しくないのにこのアドベントカレンダーに参加しているんだろう…….

 前置きが長くなりましたが,本題に入りましょう.間違いのないように気をつけて書いていますが,もし間違ったことを書いていたらごめんなさい*1. 

1. Texdoc って何だ?!

 Texdoc とは何かについて,述べましょう.

 Texdoc の公式ドキュメントには

Texdoc is a command line tool which search and view documentations in
TeX Live. 

(Manuel Pégourié-Gonnard, Takuto Asakura, "Texdoc Find & view documentation in TeX Live v3.0",  2018-06-06)

 と書いてあります.私の拙い語学力で訳すと次のような感じでしょうか?

Texdoc とは TeX Live のドキュメントを探して読むためのコマンドラインツールです.

(Manuel Pégourié-Gonnard, Takuto Asakura, "Texdoc Find & view documentation in TeX Live v3.0",  2018-06-06. 日本語訳は筆者)

どういうドキュメントが読めるかはTexdoc の中の人の手による TeX Live ドキュメント案内 - Qiita に詳しいのでそちらを読みましょう.

 はい.そんなわけで.Texdoc すごそうだね.おしまい.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ってやろうかと思ったんだが,流石によろしくないので,もう少し話を続けます*2

 現在, TeX Live を使っている TeX ユーザーが大半だと思うのですが,TeX Live ドキュメント案内 - Qiita によるとこの5GB 近い塊*3の4割位はドキュメントだそうです.これだけ容量を占めているドキュメントを読まないのはとてももったいないですね.このドキュメントを探して読むためのツールが Texdoc です.使い方は簡単.TeXLive の入っているパソコンで,単に PowerShellWindows ユーザー)やターミナル(Linux ユーザー)に

$ texdoc (見たいドキュメントの名前)

を入力するだけです.勝手にビュワーが立ち上がって,ファイルを見せてくれます.

すごい簡単!!!これで明日からTeX Live ドキュメントのマスター(?)だ!!!

 とはならんですね.だって見たいドキュメントの名前わからなかったらどうしようもないわけですから.一応こんな名前のファイルないかなぁというのを探すときのために

$ texdoc -l (expr)

とオプションをつけることで,(expr) が含まれるドキュメントの一覧を出してくれますが,それでも初心者は何を (expr)とすればよいのかわからないでしょう(わかるなら多分初心者じゃないと思う.この記事読まなくて良いのでは).

 そこで,texdoc を私自身がよく使うタイミングをユースケース*4として紹介したいと思います.皆さんの参考になれば幸いです.参考にならなくても怒らないでね.

 TeX Live を full インストールしていれば,他の環境でも問題なく再現できる話だと思いますが,動作確認は

  • エディション Windows 10 Home
  • バージョン 20H2
  • OS ビルド 19042.685

の中で WSL 2 の ubuntu-20.04 で行っています.また,TeX Live の バージョンは 2019.20200218-1 です*5(私自身が,WSL ユーザーなのでアレですが,実は WSL で Texdoc を使うには工夫が必要です.手前味噌ですが,Windows Subsystem for Linux で Texdoc を使いたいというおはなし - Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳 を参照してください).

2. 初心者のための texdoc ユースケース

texdoc のユースケースを3つほど紹介します.

2.1. あの記号出したいんだけど,コマンドわからんのじゃが……

 ある日のこと,S くんはゼミでの論文紹介のためにスライドを LaTeX で作っていました.紹介したい論文に ¦ という記号が使われているので,自分のスライドにもこの記号を使いたくなりました.残念ながら S くんは頭がよくないので,¦ の出力コマンドをしりません.ここで諦めて別の記号を使うか,と思っていたとき,頭の良い友達の W くんが

$ texdoc symbols

を使ってみたまえ,と勧めてくれました.するとなんということでしょう,たちまち,symbols-a4.pdf *6という PDF ファイルが立ち上がり,LaTeX で使うことのできる記号の一覧が出てきたではありませんか!S くんはこのファイルの中を検索することによって ¦ という記号を出したければ,\usepackage{textcomp} をプリアンブルに書き,\textbrokenbar というコマンドを使えば良いことが分かりました.めでたしめでたし*7

 

 また,別の日のこと,S くんは「新しく定義したこの『二項関係』の記号どうしようかな. LaTeX で使えるいい感じの関係記号ないかなぁ」と悩んでいました.悩んでいても仕方ないので,S くんは

$ texdoc symbols

してみました.symbols-a4.pdf は記号を種類ごとにまとめてくれているので,「binary」などと検索をすると,さまざまな二項関係の記号を眺めることができます.

「お,これ良さそう」

S くん,良さそうな関係記号を見つけることができたようです.めでたしめでたし.

2.2. パッケージ特有のコマンドを忘れちまった……

私はよく,bussproofs というパッケージで,証明図を書きます.証明図というのは次のような記号論理学などで使われる図です(Texdoc の使い方と直接関係ないので意味を理解する必要はありません).

\begin{prooftree} \AxiomC{$A$} \AxiomC{$B$} \BinaryInfC{$A\land B$} \end{prooftree}

しかし,頭がよくないので,普段やらないようなことをやろうとすると,すぐコマンドがわからなくなります.

たとえば,

\begin{prooftree} \AxiomC{$\exists x\varphi$} \AxiomC{$[\varphi\left(t\right)]$} \UnaryInfC{$\vdots$} \UnaryInfC{$C$} \BinaryInfC{$C$} \end{prooftree}

の \(C\) と \(\vdots\) の上の線を消したくなったとします.こういう線を消すためのためのコマンドをよく私は忘れます.

こういうときは公式ドキュメントをみるために次のコマンドを打ち込みます.

$ texdoc bussproofs

すると,bussproofs.sty の公式ドキュメントが立ち上がります.ざっと目を通してみると,\noLine というコマンドで打ち消せることがわかりました(このくらいそろそろ覚えろよ).

\begin{prooftree} \AxiomC{$\exists x\varphi$} \AxiomC{$[\varphi\left(t\right)]$} \noLine\UnaryInfC{$\vdots$}\noLine \UnaryInfC{$C$} \BinaryInfC{$C$} \end{prooftree} 

 よし一仕事終わり!目的の証明図を出すことができました.

 

 このように Texdoc でパッケージの公式ドキュメントを呼び出すことができます*8.他にもたとえば

$ texdoc tikz

とすれば,tikz の公式ドキュメント*9が立ち上がるわけですね.

いわゆるパッケージ以外にも KOMA-Script という種類のドキュメントクラスの公式ドキュメントは

$ texdoc KOMA-Script

と打てば,出てきますし,

$ texdoc luatex-ja

 と打てば,LuaLaTeX で使える種類の日本語ドキュメントクラスの公式ドキュメントが立ち上がります.普段使うドキュメントクラスの公式ドキュメントを調べてみると自分の知らないオプション引数など新しい発見があり,おもしろいです.

ところで,Texdoc も TeX Live に含まれるツールの一つなので,

$ texdoc texdoc

とすれば,Texdoc の公式ドキュメントを見ることができます.Texdoc すごい!

2.3. 俺は TeX Master になるって,この前の飲み会で言ったら TeX に詳しい人達に複雑な顔をされた.それはそれとして,人並みには TeX を理解したいなぁ.

 TeX Live に含まれるドキュメントはいわゆるパッケージの公式ドキュメント以外にも色々あります.そういうドキュメントは TeX Live ドキュメント案内 - Qiita に詳しいです.

 その中でも,初心者が読むと嬉しくなりそうなものを二つほど紹介します.

1つ目は

$ texdoc short-math-guide

などとすると立ち上がる short-math-guide.pdf です.AMS のパッケージを使って LaTeX 文書作るときの注意点がまとまっていて,参考になります.AMS のパッケージを使わずに LaTeX 文書を作ることは珍しい時代だと思うので,数学を専門にしていなくても役に立つんじゃないかと思います.英語の文書ですが.

2つ目は

$ texdoc platexsheet

などとすると立ち上がる pLaTeXチートシートです.基本的なコマンドをど忘れしたときなどに役に立ちます.

3. まとめ

 はい.そんなわけで TeX 初心者にとって役に立ちそうな texdoc のユースケースを3つ紹介しました.

 もしかしたら,「ググった方が早いのでは」と思った人がいるかも知れませんが,LaTeX に対する怪しげな記事*10が散見される現代にあっては,公式ドキュメントに目を通す習慣をつけるという意味でも,Texdoc を使ってみると良いと考えます.

 Texdoc の仕組みや立ち上がる pdf viewer の変更方法などより進んだ情報については,

$ texdoc texdoc

をすると見ることのできる Texdoc の公式ドキュメントを参考にしてください.

 

 Texdoc の検索ワードを何も思いつかんとき,結局ググるけどね.

*1:もし,間違ったことを書いていても詳しい人からツッコミが入るはずなので,そのうち訂正されるはずだ.たぶん.知らんけど.

*2:TeX Live ドキュメント案内 - Qiita 以上の内容を書ける自信はないですが.

*3:Full でインストールした場合.

*4:あれ,使い方合ってる?

*5:最新版を apt を使わずに引っ張ってくる元気はない.

*6:http://tug.ctan.org/info/symbols/comprehensive/symbols-a4.pdf

*7: このケースの場合, Detexify LaTeX handwritten symbol recognition のような手書きされた記号から TeX Command を推測してくれるサービスを使うという手もあるんですがね…….後で知りましたが.

*8:というか,そのための Texdoc だよなという……

*9:聞いた話による(どこで聞いたかは忘れてしまった)と,tikz の公式ドキュメントには現在非推奨なコードが含まれているそうなので,読む際には注意が必要だそうです.

*10:この記事のように.

ZF が矛盾した日

 Twitter にて「Tychonoff の定理選択公理なしで証明された」という主張を見た.

 どのような体系で証明されたのかよくわからないが,もし,その体系が ZF の部分体系(もしくはそれと同等の証明能力を持つ体系)であって,また仮に証明されたのが事実だとすれば,その系として「ZF が矛盾する」ことを示す.以下では選択公理は ACと略記する.

 次の事実を使う.

事実1.

以下の2つは同値

  1. ZF が矛盾する
  2. ZF + \(\lnot\)AC が矛盾する

事実2.

ZF 上で AC とTychonoff の定理 は同値.

 さて,ZF の部分体系(もしくはそれと同等の証明能力を持つ体系)で「Tychonoff の定理選択公理なしで証明された」と仮定しよう.すると,当然 ZF において,Tychonoff の定理 を選択公理なしで証明することができる.これは事実2 から ZF において,AC が証明できることを意味する.よって,ZF + \(\lnot\)AC から AC が証明できる.これはZF + \(\lnot\)AC が矛盾することを意味する.ゆえに事実1 からZF が矛盾することが結論される.

また

事実3.

以下の2つは同値

  1. ZF が矛盾する
  2. ZFC が矛盾する

から,ZFCも矛盾する.

参考文献

Set Theory (Studies in Logic: Mathematical Logic and Foundations)

Set Theory (Studies in Logic: Mathematical Logic and Foundations)

  • 作者:Kunen, Kenneth
  • 発売日: 2011/11/02
  • メディア: ペーパーバック
 

 

集合論―独立性証明への案内

集合論―独立性証明への案内

 

  

 

追記(2020/9/18)

 どうも「Tychonoff の定理選択公理なしで証明された」と主張された方は「ZFC は矛盾している」という信念をお持ちのようである.仮に「ZFC は矛盾している」と仮定すると「ZF が矛盾すること」は事実3 からすみやかに導かれる.つまり,この記事の内容は件の人にはすべて自明であったようである.なんてこったい.

n回微分可能だがn階導関数が不連続になる関数

 ある日, わたしが

微分可能だけど導関数が不連続な関数を思いつかないよう(ノдヽ)*1

と困っていたらある人が

[1]のページに答えが書いてあるよ」

と教えてくれた.

 そこに書かれている関数を眺めていたら\(n\)回微分可能だが\(n\)階導関数が不連続になる関数を思いついたのでここに記す. 

 

定義1 (\(n\)回微分可能だが\(n\)階導関数が不連続になる関数)

\(f : \mathbb{R} \to \mathbb{R} , n \in \mathbb{N} \)

\[ \mathop{f}{\left( x \right)} := \begin{cases} x^{2n} \sin \frac{1}{x}, & x \neq 0; \\ 0, & x = 0. \end{cases} \]

\(f\)が\(n\)回微分可能だが\(n\)階導関数が不連続になる関数である証明の概略

命題2 (\(f\)の\(m\)階導関数)

\[ \mathop{f^{\left( m \right)}}{\left( x \right)} := \begin{cases} \sum_{k=0}^{m} a_{\left( m , k \right)} x^{2n-m-k}  \mathop{\mathrm{CS}_{k}} \frac{1}{x}, & x \neq 0; \\ 0, & x = 0; \end{cases} \]

for \( m \in \mathbb{N} , 1 \leq m \leq n - 1\), \( a_{\left( 1 , 0 \right)} = 2n , a_{\left( 1 , 1 \right)} = 1,  \) \(a_{\left( 1 , k \right)} = 0 \quad \left( 1< k \right), \) \( a_{\left( m , 0 \right)} = 2n \cdot \left( 2n - 1\right) \cdot \dots \cdot \left( 2n - m + 1 \right) \quad \left( 1 < m \right), \) \( a_{\left( m+1 , k \right)} = \left( 2n - m - k \right) a_{\left(m , k \right)} + (-1)^{k+1} a_{\left( m , k -1 \right)} \quad \left( 1 < k \right) , \)

\[ \mathop{\mathrm{CS}_{k}} {\left(  x \right)} = \begin{cases} \sin x, & k\text{ is even}; \\ \cos x, & k\text{ is odd}. \end{cases} \] 

 
(命題2の証明の概略)

\(x=0\)での微分可能性と\(\mathop{\mathrm{CS}_{k}}' {\left( x \right)} = \left( -1 \right)^{k} \mathop{\mathrm{CS}_{k+1}} {\left( x \right)}\)に注意して\(m\)についての帰納法. \(\square\)

 

系3 (\(f\)の\(n\)階導関数)

\[ \mathop{f^{\left( n \right)}}{\left( x \right)} := \begin{cases} \sum_{k=0}^{n} a_{k} x^{n-k}  \mathop{\mathrm{CS}_{k}} \frac{1}{x}, & x \neq 0; \\ 0, & x = 0; \end{cases} \]

where, for \( m \in \mathbb{N} , 1 \leq m \leq n - 1 \) and

\[ \mathop{\mathrm{CS}_{k}} {\left(  x \right)} = \begin{cases} \sin x, & k\text{ is even}; \\ \cos x, & k\text{ is odd}; \end{cases} \]  \( a_k \text{ is const.} \)  

この\(f^{\left(n\right)} \left (x \right)\)は原点で不連続である. なぜなら, \( k < n \) のときは\[a_{k} x^{n-k}  \mathop{\mathrm{CS}_{k}} \frac{1}{x} \to 0 \qquad \text{as } x \to 0\]だが,  \(k = n\) のとき \( a_{k} x^{n-k}  \mathop{\mathrm{CS}_{k}} \frac{1}{x} = a_{k} \mathop{\mathrm{CS}_{k}} \frac{1}{x} \) は \(x\to 0\) で振動するから. \(\blacksquare\)

余談

1. 当たり前だが, この\(f \in C^{n-1}\)だが\(f \not \in C^{n}\)である. 

2. \(f \in C^{n-1}\)だが\(f \not \in C^{n}\)であるような関数はこれ以外にも

\[ \mathop{g}{\left( x \right)} := \begin{cases} x^{n}, & 0 \leq x; \\ -x^{n}, & x < 0; \end{cases} \]

などがある. ただ, この関数の\(n\)階導関数はそもそも存在しない. \((n-1)\)階導関数 \(g^{\left( n-1 \right)} \left( x \right)= n!\left| x\right|\) は連続だが \( x = 0 \) で微分不可能だからである.

参考文献

 [1]  https://mathtrain.jp/c1kyukansu

*1:つまり微分可能だが \(C^1\) 級ではない関数が思いつかないと悩んでいた.

分離論理入門のようなもの

この記事は

https://adventar.org/calendars/4015

の12/21 の記事です.

 

わたしは分離論理について書きました.

日本語で読める分離論理についてのある程度まとまった文書をわたしは知らないので,需要があるのではないかと思って書きました.

今回は「一階述語論理は知っているけど,分離論理ってなんや」と思っている方を想定読者として書いています。お楽しみいただくか、参考になれば幸いです.

 こちらのリンクから文書はダウンロードできます.

https://sokratesnil.github.io/pdfs/SL.pdf

数学する身体を読んで

数学する身体を読んだ。

内容は次のように表現できる。

 

マンガ おはなし数学史 : これなら読める!これならわかる! (ブルーバックス)
 

 

異端の数ゼロ――数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

異端の数ゼロ――数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

 

ゼロから無限へ―数論の世界を訪ねて (ブルーバックス)

ゼロから無限へ―数論の世界を訪ねて (ブルーバックス)

 

虚無

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

 

 

数学の認知科学

数学の認知科学

 

(2020/8/30 追記 この本の「身体化された数学」という単語を借用している可能性あり。元の意味と同じかは『数学する身体』の中で定義されていないため不明。

2021/11/16 追記

『数学する身体』の文庫本を本屋で見かけたので、参考文献リストを確認したところ、この本は載っていなかった。意図的かサーベイ不足かまではわからない) 

 

これらを百倍に薄めたもの。

おしまい。

 

それよりも次の本を読んだ方が勉強になるしおもしろい。または薄める前のものを読むと良い。

カッツ 数学の歴史

カッツ 数学の歴史

 

 

数学の歴史 (放送大学教材)

数学の歴史 (放送大学教材)

 

 

数学を哲学する

数学を哲学する

 

 

Zorn の補題は何の補題? ―「補題」と呼ばれる定理たち―

数学の世界には慣例的に「補題」と呼ばれる"定理"がある. 

たとえば, 

などである(分野に偏りがあるのはご容赦).

 

 なぜこれらは補題と呼ばれるのか? 

 大学生の頃にMartin Aigner, Günter M. Ziegler, "Proofs from THE BOOK", Springer のChapter 25の冒頭に答えが書いてあるのを見つけた. 有名な事実かと思いきやそうではないらしいので, せっかくなのでこのブログで共有をしたい. 

 以下がそのChapter 25の冒頭の文章である. 

 The essence of mathematics is proving theorems - and so, that is what mathematicians do: They prove theorems. But to tell the truth, what they really want to prove, once in their lifetime, is a Lemma, like the one by Fatou in analysis, the Lemma of Gauss in number theory, or the Burnside-Frobenius Lemma in combinatorics.
 Now what makes a mathematical statement a true Lemma? First, it should be applicable to a wide variety of instances, even seemingly unrelated problems. Secondly, the statement should, once you have seen it, be completely obvious. The reaction of the reader might well be one of faint envy: Why haven't I noticed this before? And thirdly, on an esthetic level, the Lemma - including its proof - should be beautiful! 

(Martin Aigner, Günter M. Ziegler, "Proofs from THE BOOK" , Third edition, Springer, 2004, p.167)

 

 訳すと次のようになるだろうか?

 

 数学の本質は定理を証明することである.  ― すなわち, それが数学者のやっていることである. 彼らは定理を証明している. しかし, 本当のことを言えば, 生涯に一度でもいいから彼らが本当に証明したいものは補題なのである. たとえば,  解析学におけるFatou の補題や数論におけるGauss の補題, 組み合わせ数学におけるBurnside-Frobenius の補題のような.
 さて,  何をもって数学的主張は真の補題と言われるのか? まず, その主張は一見して無関係と思えるような問題にさえも応用可能なほど広範囲の応用例を持つべきである*1.  次に, その主張は一見して完璧に明らかであるべきである.  その主張を読んだものはかすかな羨望を覚えるかもしれない. 「なぜ, こんな簡単なことに私は気が付かなかったんだろう?」と*2. 最後に, 美的感覚*3において, その「補題」が―証明も含めて―美しくあるべきである!

(翻訳は筆者自身)

 

補題」と呼ばれる"定理"にはこのような事情があったのである. 

 たしかに冒頭に挙げたような「補題」たちはいろんな定理の"補題"になっている(言い換えると, 応用範囲が広い)し, (一度わかれば)主張は明らかである. 最後の「美しさ」の部分については意見が分かれるような気もするが, 見る人が見れば「美しい」のであろう(たぶん). 

 今後の読者の学習の参考になれば幸いである. 

参考文献

Proofs from THE BOOK

Proofs from THE BOOK

 

 

この本は日本語訳も出ている.  

天書の証明

天書の証明

 

 

*1:訳注:かなり意訳してしまったので, ニュアンスが違うかもしれない.

*2:訳注: 原文では直接話法ではなかったのだが日本語にすると大変おさまりが悪かったのでこうした.

*3:訳注:ここもニュアンスをうまく訳せていない可能性がある. esthetic は「審美的」と訳されることが多いようであるが, あまり一般的な用語ではないように思われ, 意味が伝わらないのではないかと考えた.

自然数の定義

自然数の定義を淡々と述べるものです. 過度な期待はしないでください.

1. 構造としての自然数の定義

1.1. Dedekind による定義

  空でない集合 \( \mathbb{N} \) と単射写像 \( \mathop{s}: \mathbb{N} \to \mathbb{N}\) ,  \( 0 \in \mathbb{N} \) が次のI), II)を満たすとき \( \left(\mathbb{N}, \mathop{s}, 0 \right) \) を自然数と言う:

I) \(  0 \not \in \mathop{s} \left(\mathbb{N}\right) \);

II)  \( X \subset \mathbb{N} \)について, \( 0 \in X \)かつ\( \mathop{s} \left(X\right) \subset X \)ならば, \( X = \mathbb{N}\).

1.2. ペアノの公理(オリジナルとは異なる書き方をしている)

  空でない集合 \( \mathbb{N} \) と単射写像 \( \mathop{s}: \mathbb{N} \to \mathbb{N}\) , ある \( 0 \in \mathbb{N} \) が次のI), II)を満たすとき \( \left(\mathbb{N}, \mathop{s}, 0 \right) \) を自然数と言う:

I) \( \mathop{s}\left( x \right) = 0 \) となるような \( x \in \mathbb{N} \) は存在しない;

II) \( \mathbb{N} \) の元 \(n\) についての(正しいとは限らない)性質 \( P\left( n \right) \) が次のi), ii)の性質を満たすとき, すべての \( \mathbb{N} \) の元 \(n\) について \( P\left( n \right) \) は成り立つ:

i) \( P \left( 0 \right)\) が成立する; 

ii) \( P \left( n \right) \) が成立すると仮定したとき, \( P \left( \mathop{s}\left( n \right) \right) \) が成立することが示せる. 

1.3. 2階述語言語を用いて

 \( \mathcal{L}_2 =\left( 0, s, = \right) \)という2階述語言語に対して以下のような論理式の集合\( T \)を考える.  \[ \forall x \forall y \left( sx = sy \to x = y \right) \] \[ \forall x  \lnot \left( sx = 0 \right) \] \[ \forall X   \left( 0 \in X \land \forall n \left(  n \in X \to sn  \in X \right)  \to \forall n \left( n \in X \right) \right) \]

\( T \)の(標準解釈の下での)モデルを自然数という. 

2. 1の自然数の定義を満たす具体的な自然数

 当たり前ですが, ここから下で定義されるものは1の定義を満たしています. 

1.1.  文字列

 \( 0, s \)を文字とする. 

I) 文字列"\(0\)"は自然数である. 

II) 文字列"\(\mathbf{n}\)"が自然数であるとき, 文字列"\(s\mathbf{n}\)"は自然数である. 

III) I), II)のようにして構成される文字列のみが自然数である. 

1.2. 空集合からの構成 

I) 空集合\(\emptyset\)は自然数である. 

II) 集合\(n\)が自然数であるとき, 集合\(n \cup \left\{ n \right\}\)は自然数である.

III) I), II) のように構成される集合のみが自然数である. 

1.3. 順序数として

 最小の極限順序数を自然数という.  

1.4. 自由モノイド (M 氏に教えてもらった)

 \( \left\{ 1 \right\} \)を生成元とする自由モノイドを自然数と言う. 

 

参考文献

[1]H.D.エビングハウス他, 『数』, 丸善出版

数 上 (シュプリンガー数学リーディングス)

数 上 (シュプリンガー数学リーディングス)

 

 [2] 田中一之他, 『ゲーデルと20世紀の論理学3』, 東京大学出版会

ゲーデルと20世紀の論理学 3 不完全性定理と算術の体系

ゲーデルと20世紀の論理学 3 不完全性定理と算術の体系

 

[3] デーデキント,『数について:連続性と数の本質』,岩波書店

 

自然数全体から「同様に確からしく」自然数をランダムに選ぶことができないという話

1. 導入

 最近Twitter で「自然数全体から『同様に確からしく』自然数をランダムに選ぶことができる」と思っている方を見かける. 残念ながらそのような確率空間は存在しないという話を書く*1

2.本論

 まず, 数学的に確率空間を定義しよう. そのためにまず完全加法族を定義する. 

定義( 完全加法族 )

 \( \Omega \)を集合とする. 

 \( \Omega \)の部分集合の族\( \mathcal{F} \)が次のi), ii), iii)の条件を満たすとき\( \mathcal{F} \)を\( \Omega \)上の完全加法族という. 

i) \( \emptyset, \Omega \in \mathcal{F}. \)

ii) \(\mathcal{F}\)の元の族 \( \left\{ E_i \right\}_{i \in \mathbb{N}}  \)を任意に取る. このとき, \[ \bigcup_{i = 0}^{\infty} E_i \in \mathcal{F}.\]

iii) \( E \in \mathcal{F} \)ならば\( \Omega \setminus E \in \mathcal{F}. \)

 要は補集合を取る作業と可算個の集合和に対して閉じている集合の族である. 

 当然だが, 一般的に\( \Omega \)上の完全加法族は複数存在する*2

 

 確率空間を定義する. 

定義(確率空間)

 \( \Omega \)を集合, \(\mathcal{F}\)を\( \Omega \)上の完全加法族とする. 

関数\( P:\mathcal{F} \to \left[0, 1\right] \)が次のI), II)を満たすとき, \(P\)を確率測度と言う. また, \( \left( \Omega, \mathcal{F}, P\right) \) の三つ組みを確率空間という. 

 

I) \( P\left(\emptyset\right) = 0, P\left(\Omega\right) = 1 \)

II) \( \left\{ E_i \right\}_{i \in \mathbb{N}}  \)を\( \mathcal{F} \)の元の族で互いに素な族とする(すなわち, \( i\neq j \)ならば\( E_i \cap E_j = \emptyset \)). このとき, 

\[ P \left(\bigcup_{i = 0}^{\infty} E_i \right) = \sum_{i = 0}^{\infty} P \left( E_i \right). \]

 高校数学風に説明すると, \(\Omega\)は「根元事象の集合」, \(\mathcal{F}\)は「事象の集合」, \(P\)は「事象の起こる確率を与える関数」となる. 

 確率空間の具体例などは参考文献として挙げるものを参照してほしい. 

 

 さて, ここから本題である. 

自然数全体から『同様に確からしく』自然数をランダムに選ぶ」という確率空間\( \left(\Omega, \mathcal{F}, P \right) \)は次を満たすものであるはずである. 

NOTE

a) \( \Omega = \mathbb{N} \). 

b) 任意の\(n \in \mathbb{N} \) について, \( \left\{ n \right\}\in\mathcal{F}\). 

c) 任意の\(n, m \in \mathbb{N} \) について, \( P\left(\left\{ n \right\}\right) = P\left(\left\{ m \right\}\right) \). 

a) は根元事象は「自然数を選ぶこと」なので当然である. 

b) は「ある自然数\(n\)を選ぶこと」に対して確率を与えなくてはならないので, 必要である. 

c)は「同様に確からしい」 という条件に対応する. 

 

さて, b)の条件から\( \mathcal{F} = 2^{\mathbb{N}} \)であることがわかる(ただし, \(2^{\mathbb{N}} \)は\(\mathbb{N}\)の部分集合全体の集合). なぜなら, 任意の\( S \subset \mathbb{N} \)に対して, \[ E_i = \begin{cases} \left\{ i \right\} & i \in S,  \\ \emptyset  &  \text{Otherwise,} \end{cases} \]と定義すれば, 当然すべての\(E_i\)は\( \mathcal{F}\)の元であるので,  \[ \bigcup_{i = 0}^{\infty} E_i \in \mathcal{F}\]

が成り立ち, 一方で定義から\[ S = \bigcup_{i = 0}^{\infty} E_i \]

も成り立つからである.

 

 さて, 問題はc)の条件である. 確率空間のI)の条件とII)の条件から\(P\)は次のようなことを成り立たせねばならない. 

NOTE

\[E_i = \left\{ i \right\} \,\, \left( i \in \mathbb{N} \right)\]

という\(\mathcal{F}\)の元の族を考える. II)の条件から

\[ P \left(\bigcup_{i = 0}^{\infty} E_i \right) = \sum_{i = 0}^{\infty} P \left( E_i \right). \]

ここで

\[ \mathbb{N} = \bigcup_{i = 0}^{\infty} E_i \]

であるから, I)と合わせて, 

\[  \sum_{i = 0}^{\infty} P \left( E_i \right) = 1  \qquad \text{(A)} \]

でなければならない. 

 さて,  (A)が問題である. 簡単のため以下\( a_i = P \left( E_i \right)\)と書くことにする. 

 (A)が成立する必要条件として, \[ \lim_{i \to \infty} a_i = 0 \qquad \text{(B)}\] がある(収束する無限級数の性質).

 c)の性質を仮定すると, 各\(i, j \in \mathbb{N} \)に対して\(a_i = a_j\)である(つまり, \( \left\{ a_i \right\}_{i \in \mathbb{N}} \)は定数列である)から, (B)と合わせると, 全ての\(i \in \mathbb{N}\)に対して\[a_i = 0\]となる. しかし, これは(A)に矛盾する. 

 つまり, c)の条件を満たす確率空間は存在しないのである. 

3. 結論

自然数全体から『同様に確からしく』自然数をランダムに選ぶことができない」ことを示した.  

 

参考文献

[1] 伊藤清, 『確率論の基礎』, 岩波書店 

確率論の基礎 新版

確率論の基礎 新版

 

確率空間の定義の確認などに用いた.  コンパクトにまとまっているので復習にちょうど良いとされる(ホンマか?).

 

[2] 舟木直久, 『確率論』, 朝倉書店

確率論 講座数学の考え方 (20)

確率論 講座数学の考え方 (20)

 

 確率論の定評のある教科書である. 

*1:だいぶ昔に別の人がこの辺の話をもっとがっつりブログの記事かなにかに書いていた気がする. 探したのだが, 見つけられなかった. 知っている人がいれば教えてほしい.

*2:例として\( \left\{ \emptyset, \Omega\right\}\)と\(2^{\Omega}\)はそれぞれ完全加法族の定義を満たす.

つまようじを投げて円周率を求めてみた

この記事は

Math Advent Calendar 2018 - Adventar

の12/19付の分の記事です(え?10日も遅れてる?......スタンド攻撃を受けているようだな). 

 

ビュフォンの針という問題をご存じだろうか?

ビュフォンの針

 平面上に平行線が等間隔に多数書かれている. その間隔を \( l \) とする. 

 その平面上に長さ \( r \) の細い針を落とす.

 その針が平行線と交わる確率を求めよ(ただし, \( r \leq l \) としてよい). 

 この問題*1の答えは

ビュフォンの針の答え

\[ \frac{2r}{l\pi} \]

 である(詳細は省略. 時間があれば証明をそのうちアップするかもしれない. ). 

 

 さて, この答えをよく見ると円周率\( \pi \)が含まれている. そのため, 次のようなことが思いつく. 

 針を\(n\)回投げた時に交わった針の本数を\(m\)本とすれば, 大数の法則より

\[ \frac{2nr}{ml} \to \pi  \qquad \text{as} \qquad n \to \infty \]

が成り立つ.  
これを利用して円周率の近似値を求めることはできないか?

 

 そんなわけで実際にやってみた. 

 

 次のような条件の下で協力者Tと共に実験を行った. 

  • 針を投げるのは危ないので, 投げるのは形状の似ている「つまようじ」にする. 
  • 「平行線」は縞模様で表現することにした(線の太さを\(0\)に近づけて交わっているか交わっていないかの判断を簡単にするため). 
  • つまようじの長さと縞模様の間隔は同じにする(\(r=l\)を仮定する). 
  • 一気に複数本を箱に入れて投げる(手間を減らすため). 

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つまようじを入れるための箱(手作りなのでしょぼいのはご愛敬)

f:id:Sokrates7Chaos:20181231170802j:plain

投げては数え上げるを繰り返す

 

 のべ400本投げた実験結果は次のようになった.  

f:id:Sokrates7Chaos:20181231171516j:plain

実験結果

絶対誤差は-0.029.

相対誤差は0.009.

 

 時間の関係で今回はのべ400本しか投げることができなかったが, のべ400本の時点でかなり良い近似を得ることができたので, 回数を増やしていけばもっと良い近似値を得ることができるはずである. 機会があればまた挑戦をしたい. 

 

参考文献および実験器具たち

天書の証明

天書の証明

  • 作者: マーティン・アイグナー
  • 出版社: 丸善出版
  • 発売日: 2012/9/1
  • メディア: 単行本
 

 

妻楊枝 大 約500本 21003

妻楊枝 大 約500本 21003

 

 

 

 

*1:最後の\( r \leq l \)という条件は簡単のためつけてある. \( l < r \)のとき, 針の長さが平行線の間隔より大きくなるため, 交わる確率が大きくなるからであるからである.