Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳

ブログは同人誌の一種だと思って書いてる.書きたいことを書いている.駄文注意.

ビジネス数学騒動について思うこと

"ビジネス数学"に対する批判について思うところを書くものである.

"ビジネス数学"が炎上してからだいぶ時間が立ってしまったが,ようやくまとまった文章にすることができた.
完全にお気持ち全開の記事なので,そういう文章が苦手な方は読まなくても大丈夫です.

ビジネス数学騒動とは?

ここで言う「ビジネス数学騒動」とは次の2つの騒動の総称である.

  1. 「結婚できる可能性は1/2」騒動
  2. 「統計でウソをつく法・実践編」騒動

この2つの騒動を起点として別の炎上も起きたが,正直フォローしきれていないので、ここではこの2つの騒動に絞って話す.

それぞれの騒動についてまとめる.

「結婚できる可能性は1/2」騒動

「結婚できる可能性は1/2」騒動について説明をする.

次の Togatter のまとめも参考にしてほしい.
togetter.com

  • 日本ビジネス数学協会の代表理事深沢真太郎氏(以下H氏)の書いた本たった9時間でSPIの基礎が身につく!! <2021年度版>に誤りがあった
    • その誤りというのが小学生向けの啓蒙書 目からうろこ 小学生の「さんすう」大疑問100 に書いてあるレベルの誤りであった
      • 具体的には「『結婚できる』か『結婚できない』かという2通りのうちの1通りだから,結婚できる確率は1/2である」という「誠実な誤り」とは考えにくいものである
  • その本の著者は修士号(理学)を持っている
    • その割には上記が誤りであるという指摘が理解できていない
      • どうも「確率とは(事象の元の個数)/(全事象の元の個数)と常に定められる」と本気で思っている節がある
  • 著者本人が言うには「七年前の本」らしい
    • 実はこの種の誤りは H 氏の発信するコンテンツで繰り返されており、「七年前の本」だけが問題ではない(そういった発信を繰り返していたことは H 氏も認めている)
    • じつは「七年前の本」だけではなく,同著者の2019年初版の本にも全く同じ主旨の記述がある.
  • この件で「確率」についてご指摘いただきました|深沢真太郎 累計25万部/ビジネス数学教育家/数字に強い人材・組織をつくる専門家|noteというノートを公開したが,謝罪文の体にはなっているものの謝罪にはなっておらず,それどころか開き直っていると受け取れる主張を展開した

「統計でウソをつく法・実践編」騒動

「統計でウソをつく法・実践編」騒動について説明をする.こちらの騒動は「結婚できる可能性は1/2」騒動に派生して注目を集めたと考えられる.

こちらは次の2つのツイートも参考にしてほしい.

  • 「ビジネス数学」のアカウントに「統計的誤謬」を薦めていると思しきツイートが注目され批判を集めた.
    • 一部,右側のグラフ縦軸の最下点の座標が0から始まっていないことに対する批判もあった.
      • ただし,この批判自体は不適当な批判である.なぜなら,問題となったグラフは折れ線グラフなので,折れ線の傾きが着目するべきポイントなので,原点の位置はあまり関係ない*1
  • それに対して「ビジネス数学」のアカウントが謝罪文を投稿.しかし謝罪するべき部分とはズレた内容であり,やはり批判が集中した.

何が問題であったか

この騒動の問題点は大きく分けて

  1. 深沢真太郎氏個人の数学的知識の欠如
  2. 日本ビジネス数学協会の自浄作用の欠如
  3. 誠実さが欠如していると思われかねない対応

の3つの側面がある.

深沢真太郎氏本人の数学的知識の欠如

  • 「確率」と言ったら「確率の公理」を満たす対象*2のことを数学的には意味するが,「(数学的)確率とは(事象の元の個数)/(全事象の元の個数)と常に定められる」と思っている*3
    • 無限の根元事象があるような確率空間を考えたことがあれば,おかしいことはすぐにわかる.
    • またこの手の誤謬は小学生向けの啓蒙書 目からうろこ 小学生の「さんすう」大疑問100 に書いてある程度にはメジャーなものである.
  • 明らかな数学的なミスにもかかわらず「捉え方の問題」と問題をすり替えるなどしている.
    • 「不誠実さ」に入れようかとも思ったが,「数学的に誤っている」と理解していない節が見られるのでこちらに入れる.

日本ビジネス数学協会の自浄作用の欠如

  • 日本ビジネス数学協会は,公益財団法人 日本数学検定協会(いわゆる数検を開催している団体)が発効する「ビジネス数学インストラクター」なる資格取得者の育成を行っている
    • 日本ビジネス数学協会の会員は,代表理事の書いた本にあのレベルの誤りがあったことを7年間も放置していたまたは気が付かなかったとでもいうのか?
    • 上記のようなレベルの誤りが7年間も放置されていたという衝撃の事実

誠実さが欠如していると思われかねない対応

深沢真太郎氏の対応の問題点
  • 深沢真太郎氏は「七年前の本」と言っているが, 同著者の2019年初版の本にも全く同じ主旨の記述がある.
  • 謝罪文の内容が反省しているように全く見えない.
    • 「あなたたちのやっている数学と私のやっているビジネス数学は違うんです」と受け取れる内容のため,出来の悪い言い訳にしか見えない.
日本数学検定協会の対応の問題点
  • 謝罪すべき点をわざとズラしているかのような謝罪文
    • 「見解をわかりやすく伝わるように適切に表現しましょう」というそもそもの意図が批判されているにもかかわらず,「原点を書いていなかったこと」のみを謝罪している.
      • 先にも述べたが,その点はあまり問題にならない.
      • 「誤解を誘導するようにグラフを書きましょう」と受け取られかねないことを述べたことを謝罪するべきである.
  • この謝罪文自体にも批判が集まったが,その後,日本数学検定協会からのコメントはない.

私の思うこと

ここから先はポエムである.以降,日本数学検定協会の商標である*4「ビジネス数学」と「ビジネスのための数学」を別物として扱う.


「ビジネスのための数学」といわれて,まず私が連想するのは「数理モデリング」や「形式手法」などである.しかし,「ビジネス数学検定」のサンプル問題を見る限り,そのようなものは全く出てこない.せいぜい「回帰分析」くらいのものである.
思うに「ビジネス数学」は「高校数学+αの内容を復習するための方便」なのだ.「ビジネス数学検定一級」のサンプル問題の内容はまさに「数学IA」の「データの分析」の内容そのものである(ちょっとはみ出している部分もあるが).手計算だとしんどそうな問題も多いが,計算機(電卓でも可)が使える場面であれば,それほど問題にならないような問題が並んでいる.「大人のための数学検定」などと喧伝しているがその実態は「(高校数学を復習しているがそれを表に出すのが恥ずかしい)大人のための数学検定」ということなのであろう.まぁ,そもそも高校数学レベルが怪しいのに「数学を勉強し直そう」という人はかなり稀ではないかと思うので,需要としてもよくわからないが.
で,「高校数学+α」だけだと「ビジネスにどう役に立つか」が分かりづらいので,「統計でウソをつく法・実践編」を指南しているのではないだろうか?今後「ビジネス数学の資格を持っています」と言う人と相対するときは,「統計的誤謬を使うぞ」と警戒しながら話したほうが良さそうである.

関連する文献

目からうろこ 小学生の「さんすう」大疑問100
たった9時間でSPIの基礎が身につく!! <2021年度版>
統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門 (ブルーバックス)

そもそもあの本の構成自体が良くないという話

これは今回の騒動とは直接関係のない話であるが,たった9時間でSPIの基礎が身につく!! <2021年度版>という本自体,かなり出来が悪いように思われる.問題点として

  1. 出てくる概念の解説が短い(わかっている人用の解説しかない).
  2. 練習問題に対する解説がない(基本的に解答のみで,考え方などは例題に対してのみしか載っていない)
  3. 各章のサブタイトルと内容が対応していない(たとえば,「14, グラフと領域〜よく耳にする「見える化」っていったい何?〜」と書いてあるが,「見える化」について本文中に特に記述がない)

の3点が挙げられる.そもそも「計算が苦手なんです…は許されない!」とでかでかと書くなら題名を「計算問題集」にするべきである.

*1:ホテルの稼働率の評価をするのにこの折れ線グラフを持ってくるのはどうかと思うが.前年度の同時期との自己相関係数を調べて評価するのが妥当であろう.

*2: 確率の公理については 自然数全体から「同様に確からしく」自然数をランダムに選ぶことができないという話 - Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳 に書いたことがある.

*3:「あくまで「◯通り」のうち「△通り」が確率であるという基礎概念」という謎の(誤った)概念を持ち出している.

*4:参考:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2019-027070/ABEDB0127E4B33BFC679A28BC9DC960A362D3691573F5C04257570ED4FD17310/40/ja