Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳

書きたいことを書いている.駄文注意.

数を数えて遊ぼっ! ~その0(前提知識編)~

今日の話はこちら! 

wreck1214.hatenablog.com

 「伝道師になろう」というイベントがあります. 変な名前ですが, 宗教系のイベントではありません*1. 中身は「好きな趣味の話をして, 自分の趣味を伝道しようぜ」というオタクのオタクによるオタクのための会です. 

 

 ここで, 「数を数えて遊ぼっ~It is very dangerous to think about infinity as well as about finite.~」という発表させていただきました.「連続体仮説」について簡単に話したつもりだったのですが, 上の記事にあるようにかなり駆け足で説明したので, 「中学生にわかる」とした割にわからなかった人が多かったようです. 

 

 そこで, 今回から数回に渡って, 高校生にわかるように(高校数学の「集合」の単元の知識は仮定する)その講演で話したかった内容の説明を丁寧にしていきたいと思います*2.

 目標は「連続体仮説の主張を理解する」ことです.  そして, もう一つの目標は「気分」と「厳密な議論」にわけて数学の議論を理解することです*3

 長い旅になると思いますが, 最後までごゆるりとお付き合いいただければ幸いです.  

0.商集合

 今回は本論の下準備として同値関係の話から始めましょう. 

 同値関係というのは次のような「関係」をです. ここでいう「関係」とは集合の元と元同士の何らかの関係のことです*4

定義0.1[同値関係] 

 集合$X$上の関係$\sim$で次のi), ii), iii)を満たすものを同値関係と言う. 

i) すべての$a\in X$に対して$a\sim a$.

ii) すべての$a, b\in X$に対して「$a\sim b$ならば$b\sim a$.」

iii) すべての$a, b, c\in X$に対して「$a\sim b$かつ$b\sim c$ならば$a\sim c$.」

 「なんだこれは?」となったかもしれません. こういった抽象的な定義なり定理なりを見た場合, 「具体例を見せろや」となるのが世の常(?)ですが, 見通しが良くなることを鑑みて, 具体例を見せるのはもう少し後にします. もうしばらく抽象論にお付き合いください. 

 さて, 「同値関係」というのは「同じ」とみなすことのできる「関係」の持つ共通の特徴です. 「ホンマかいな?」となるかと思いますが, そのことを厳密に議論するために次のような集合を考えます. 

定義0.2[同値類]

$X$を集合, $\sim$を$X$上の同値関係とする. 

$x\in X$について, 

\[C_{\sim}\left(x\right):=\left\{y\in X\left|y\sim x\right.\right\}\]

という集合$C_{\sim}\left(x\right)$を$x$についての同値類と言う. 

 つまり, $x$についての同値類とは関係$\sim$で「関係する」元の集合です. 

 さて, 同値類に対して次のような重要な定理があります. 

定理0.3[同値類の性質]

 集合$X$上の同値関係$\sim$について, $C_{\sim}\left(x\right)$を$x\in X$の同値類とする. 

 このとき, 次のI)-III)が成立する. 

I) $y, z\in C_{\sim}\left(x\right)$ならば, $y\sim z$.

II) $y\in C_{\sim}\left(x\right)$ならば, $C_{\sim}\left(y\right)=C_{\sim}\left(x\right)$.

III) $x, y\in X$について$C_{\sim}\left(x\right)\cap C_{\sim}\left(y\right)\neq\emptyset$ならば, $C_{\sim}\left(x\right)=C_{\sim}\left(y\right)$.

 この定理は同値類によって, 集合$X$の元がグループ分けできることを示しています.

 グループ分けとはそこにあるものを(細かい違いを除いて)同一視することです. ある政党の一人が不正を犯すとその政党全体が白眼視されるのと同じことです. 

 それを踏まえたとき, 定理のそれぞれの番号の主張の気分は次の通りです. 

I) $C_{\sim}\left(x\right)$に属する元同士は関係$\sim$で結ばれる. 

II) $x$を代表とする$C_{\sim}\left(x\right)$に属する元$y$について, $y$を代表とする$C_{\sim}\left(y\right)$というグループは(当然)$C_{\sim}\left(x\right)$と一致する. アイドルグループで言うなら, A$\bigcirc$Bというグループのセンターがじゃんけんで交代しようとも, A$\bigcirc$BはA$\bigcirc$Bということです*5

III) 2つ以上のグループに属する元は存在しないということです. ジャニ$\bigcirc$ズ事務所とはシステムが違います. 

 イメージはこんな感じです. 

f:id:Sokrates7Chaos:20161013014344j:plain

  線を結んであるのが「関係している」元同士です. それぞれの図形(っぽく見えているもの)が, 同値類になります. 

  さて, 同値類は$X$の元をグループ分けするものであると言いましたが, 「グループ分け」というものは一種の「割り算」とみなすことができます. 

 たとえば, 小学校のころの割り算を扱った問題として, 次のような問題があります. 

もんだい.

 りんごが30こあります. このりんごを5にんで, おなじかずづつわけました.  ひとりあたりはなんこですか? 

  この問題の答えは次のようになります. 

こたえ. 

\[30\div 5=6\]

6こ

  これを絵にすると次のようになります(急いで作ったので絵のしょぼさには目をつぶってください). 

 

f:id:Sokrates7Chaos:20161013014508p:plain

 この絵は「りんご」をお皿でグループ分けしているように見えます. 

 そういった気持ちの下で「グループ分け」された集合のことを「商」集合といいます. 

定義0.4[商集合]

 集合$X$とその上の同値関係$\sim$について, その同値類全体の集合を商集合と言い$X/\sim$と書く. 

 気持ちの上で割り算であることから, 商集合$X/\sim$を定義することを「同値関係$\sim$で割る」と言います*6

 さてさて, 長々とした抽象論お疲れ様でした. そろそろ約束通り具体例を見てみましょう. 上の定義たちと見比べながら下の文章を読んでみてください. 

例1(分数の"=")

 $X$を$a/b$(ただし, $a, b$は整数で, $b\neq 0$とする)という形をしたものの集まりとしよう*7 . これは(形の上では)いわゆる分数の集まりであるように見える. さて, 我々は分数の"="をどのように"定義"したであろうか? 

\[\frac{1}{2}=\frac{2}{4}=\frac{3}{6}=\frac{4}{8}\] 

と「通分」「約分」 で移りあえるモノ同士を「同じ」とした. 

 つまり, $a/b$と$c/d$が"同じ"であるとはある整数$n$が存在し\begin{align*}an&=c\\bn&=d\end{align*}となることである. 

 この$1/2$と$2/4$のように見た目が違うモノを「同じ」とみなすことに当たるのが「同値関係で割る」という行為である. 

 もう少しフォーマルにこの辺りの議論をしよう. $X$の元と$a/b$と$c/d$が関係$\sim$にあるとは, ある整数$n$が存在し\begin{align*}an&=c\\bn&=d\end{align*}となるかある整数$m$が存在し\begin{align*}a&=cm\\b&=dm\end{align*}となることである. 

 これは同値関係になっている(各自確かめてください). この同値関係$\sim$で$X$を割ることで, 有理数全体の集合$\mathbb{Q}=X/\sim$を得ることができる. 

 分数の"="も一種の同値関係であったのである.  

例2(余りによる分類)

 もう一つ有名な例を挙げておこう. $\mathbb{Z}$を整数全体の集合とする. 

 $\mathbb{Z}$上の関係$\sim$として「$a\sim b$とは$3$で割ったときのあまりが一致する」こととする. これは同値関係になっている. 

 実際, 次のように確認できる. 

i) 当然, 任意の$a\in\mathbb{Z}$について$a\sim a$である. 

ii) $a\sim b$であるとき, これも当然$b\sim a$. 

iii) $a\sim b, b\sim c$であるとき, 

\[\left(\text{$a$を$3$で割った余り}\right)=\left(\text{$b$を3で割った余り}\right)=\left(\text{$c$を$3$で割った余り}\right)\]

となるから, $a\sim c$となる. 

 この同値関係で割った$\mathbb{Z}/\sim$を普通$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$と書く. こういって作った対象は整数論などで主要な役割を果たす(詳しいことは整数論の本などで). 

 

 最後に定理0.3を証明しましょう. この定理の証明で同値関係の性質のみが用いられていることに注意をしてください. 

定理0.3の証明

I) $y, z\in C_{\sim}\left(x\right)$とする. 

 このとき, $y\sim x, z\sim x$である. 

 $z\sim x$から同値関係に性質ii)より$x\sim z$. これと$y\sim x$および同値関係の性質iii)を使えば$y\sim z$.

II) $y\in C_{\sim}\left(x\right)$とする. 

このとき$y\sim x$である. 

$C_{\sim}\left(y\right)$とすると, $z\sim y$である. よって同値類の性質iii)より$z\sim x$であるから, $z\in C_{\sim}\left(x\right)$. よって, $C_{\sim}\left(y\right)\subset C_{\sim}\left(x\right)$.

 同様にして, $C_{\sim}\left(x\right)\subset C_{\sim}\left(y\right)$も示せる. 

 ゆえに$C_{\sim}\left(y\right)=C_{\sim}\left(x\right)$.

III) $x, y\in X$について$C_{\sim}\left(x\right)\cap C_{\sim}\left(y\right)\neq\emptyset$とする. 

$C_{\sim}\left(x\right)\cap C_{\sim}\left(y\right)\neq\emptyset$であるから, $z\in C_{\sim}\left(x\right)\cap C_{\sim}\left(y\right)$が存在する. 

 よって, II)より$C_{\sim}\left(x\right)=C_{\sim}\left(z\right)$かつ$C_{\sim}\left(y\right)=C_{\sim}\left(z\right)$である. 

ゆえに$C_{\sim}\left(x\right)=C_{\sim}\left(y\right)$. 

$\blacksquare$

 

 さて, ここまでいかがだったでしょうか? 商集合は現代数学において基本的な武器の一つです. 理解の手助けにこの記事がなれば幸いです. より詳しく知りたい方は下の参考文献をしっかり読んでいただければと思います. 

参考文献

1. 松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店

集合・位相入門

集合・位相入門

 

2. 内田伏一『集合と位相』裳華房

集合と位相 (数学シリーズ)

集合と位相 (数学シリーズ)

 

 

追記(10/14)

 数式の表示バグを修正. その他, 誤字脱字も気が付いた範囲で修正. 

*1:端的に言ってネーミングミスだと思う.  異分野オタク交流会というのが正しい. 

*2:中学生はいったんあきらめます. 中学生にわかるようにはそのうちします......たぶん

*3:どこかの数学者が「数学で最も大事なのは情緒だ」と言っていましたが, 数学的証明・議論を理解することと同じくらいその「気分」を理解することは大事です. 同時にその二つを分けて考えることも非常に大事です. あくまでも「気分」なので, 厳密に正しい説明になっているとは限りません. むしろ, 歴史的にみると, それまで「気分」で捕らえきれていなかったところにこそ, 数学の偉大な発見のカギが落ちていることが多いのです.

*4:もう少しフォーマルに定義をするならば, 積集合$X\times X$の部分集合と言うことができます. 積集合$X\times X$とは「座標」みたいなもので$(a, b)$(ただし, $a, b\in X$)という形をしたもの全体の集合です. 詳しいことは今回は避けることにしますが, 詳しく知りたい人は参考文献を覗いてください.

*5:僕はあのグループについてそれほど詳しいわけではないので, 間違っていたら間違っていると言ってください.

*6:それ以外にも「同値関係でつぶす」ということもあります. これは「例外を一点につぶす」ように見えることがあるからです.

*7:高校生向けという態なので, 数学的に大事というよりも身近な例にしております. また気持ちを前面に押し出し, かなりインフォーマルに説明しています. ご了承ください.