Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳

思考の流し台. 駄文注意. 数学以外の話も多い.

【書評】異なる二人の実数解

 こんにちは. 仮面の日曜数学者です. 

 夏(コミケ)が終わってしまいましたね......

 今日は, 昨日のコミケで手に入れたこの本について書きたいと思います. 

 

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 著者とは顔見知りなので, あんまり辛口すぎると禍根を残しそうで怖いなぁ, とも思ったのですが, こういう場合思いっきりやった方が友情が生まれるって聞いたことがあるので思ったことをそのまま書くことにしました. 

 キチンと自分の思ったことを伝えるためにネタバレ上等で行きますので, 未読の方はご了承ください. 

 

 さて, この本は数学に関するショートショート集である. 目次は次のようになっている. 

パラドックスたろう(前編)

問題な指示たち 

問題な指示たち(解説)

フラクタル・クッキング

w軸から来た男

もしもタルタリアとフェラーリの勝負がフリースタイルバトルだったら

パラドックスたろう(後編)

パラドックスたろう(解説)

あとがき

 解説は対応する小説の数学的側面の書いてある部分である. 個人的には「解説の必要な小説ってなんだよ!」という感じだ. 注釈だろせめて!  

 上記の話のうちパラドックスたろう(前編)は作者が公開をしてくれている. 

motcho.hateblo.jp

 

 全体的な構成としては, 文字が大きく行間が広く目に優しいモノになっている. 使用ツールはフォントから察するにおそらくWordだろうか?

 各節は完全に独立をしていて, 他の節との関わりは(数学という共通点を除いて)一切ない. また, 数式はほとんど出てこない.

 通して読んでも結局タイトルの意味は分からなかった*1

 さて, それぞれの節に対して個別にコメントをしていこう. 

パラドックスたろう

 前編と後編で趣の違う話なので分けて議論をするべきのような気もするが, あえてまとめて感想を述べる. 

 話としては童話「桃太郎」をベースとしたパラドックスをテーマにしたものだ. 

 ネット上ではこの話が一番人気があるようだが, 自分にはあまり面白いとは思えなかった. 

 文章中にはパラドックスをネタとした文がたくさん出てくる. しかし, それらの文は鼻につくだけで, 後の伏線になっているのかと思いきやそういうわけではなかった. 必然性のない文の羅列に私には思えた. そういったギャグなのであればもう少し一つ一つのネタを大事にするべきであると思う. なんというか大量の有名なパラドックスを並べただけで, 小説として書く必要がないように思った. 

  一応, 話全体もタイムパラドックスネタになってはいるが, それをやりたいのであれば前編からしっかり伏線を張らないといけない. タイムパラドックスネタは伏線の張り方が面白さの5割ぐらいを占めるのだから. 

 やるのであれば, 一つのパラドックスを掘り下げる方向でやった方が良かったと思う. 

 ついでに言うならば, 選択公理パラドックスに含めるのはやめてくれ! 

問題な指示たち

 個人的にこの本で一番面白いと思ったのはこの話だった. 数学の問題を現実世界で再現させようとする謎の組織に振り回される男の話. 名作ではないが良作ではあると思う.  

 文それぞれも読みやすく, 話もわかりやすかった. ただ, ここで言うわかりやすさは話の筋が単純だからで, もう少しひねりがあるとより面白かったように思う. 

 僕の中での具体的なプランとしては「主人公が謎の組織の正体に迫るためにさまざまな策を講じるが, それがことごとく数学の問題にされてしまう」みたいなプロットはどうだろうか? まぁ, このプロットだともう少しページ数が必要になるが...... 

 さて, この話の解説のページに2点ほど細かな間違いがあったので, そこを指摘しておきたい. 

1. 速度の計算の項

「距離$=$速度$\times$時間」「速度$=$距離$\div$時間」「時間$=$距離$\div$速度」の関係を述べるのに「移項」という言葉が使われていたがそれは誤りである. 

 移項と言うのは左辺から右辺に項を移動する際, 正負を逆転して異動させることで等号を保ったまま式を変形させる手法

\begin{align*}a+b&=c\\ a&=c-b\end{align*}

のことで, 

\begin{align*}\frac{a}{b}&=c\\ a&=bc\end{align*}

という変形は移項とは呼ばない. 「等号の性質」によって変形できるなどと言っておけばよかったのだと思う. 

2. 年齢算

 年齢算の解法として用いるのは棒グラフではなく「線分図」と呼ばれる別物である.  

フラクタル・クッキング

 フラクタルをテーマにした料理本のパロディ. 

 フラクタルって誤解されやすいよね. 

w軸から来た男

 それなりにおもしろくはあったが, 設定に矛盾が多く若干イライラした. 

 一番変だなと思ったのは, 劇中設定では死んだら4次元に行くとのことであったが, その割には3次元人の発見がごく最近であるかのような発言があった. 3次元人が死んだら4次元に行くのであれば, 発見自体は早くてもよさそうな気がするのだが......  

 細かいことだがw軸のwはイタリック体$w$で出してほしかった. 

もしもタルタリアとフェラーリの勝負がフリースタイルバトルだったら

 後半はよくわからなかったので, 前半の数学史の部分について2つ疑問を持ったのでそこを提示したい. 

 1. 数学試合で3次方程式を解かせるタイプの問題が多かったという話は寡聞にして存じ上げないのであるが, どこが出典であろうか? 出典をぜひお教え願いたい. 

 2. 「カルダノが3次方程式の解法を公開した理由はフェラーリが4次方程式を発見したことである」と書かれているがそういった文献を残念ながら私は知らない. これも出典を教えてほしい. 

 

 総じて, 試みとしては大変面白いが, 狙っている効果がうまくいっているとは思えない作品が多かったように感じる. 数学と文学を掛け合わせるという試みを作品にすることの難しさを感じた作品集であった.  

 

 さて, 最後に数学と文学といえばということで次の二つの本を紹介しよう.  

 1つ目はこの本である. 

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

 

数学をつくった人びと〈2〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

数学をつくった人びと〈2〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

 

数学をつくった人びと 3 (ハヤカワ文庫 NF285)

数学をつくった人びと 3 (ハヤカワ文庫 NF285)

 

   悪名高い数学者伝説捏造本である. 著者は数学者としてよりもSF作家として著名な人間なのである程度仕方ないのであろう. この本を読む際はある程度嘘が混じっていると思って読むのが最も良いと思う. これも一つの数学を題材にした文学であろう. 

 

 2つ目は少しマニアックであるが, 次の連続体仮説を題材にしたSFである. 

ホワイト・ライト (ハヤカワ文庫SF)

ホワイト・ライト (ハヤカワ文庫SF)

 

  

White Light

White Light

 

  著名なSF作家Rudy Ruckerの数学SFである. 事情があってまだ読みかけなのであるが, なかなかにおもしろい. 残念ながら日本語版は絶版になってしまっているようであるが, 機会があればぜひ一読していただきたい逸品である. ちなみに私は神保町の古本屋で発見した. 

 

追記 0815

 どうも知らぬ間に手加減をしていたようで, 伝わり切っていないようなので少し加筆をいたします. かなり手厳しいとは自分でも思いますが, そこはコンセプト自体には共感を覚えているからであって, こういった作品群の質を高めるために必要と思うからです. そのあたりをご了承の上, ここから先もお読みください. 

  

 これらの作品群のうち, 「パラドックスたろう」が最も根本的な問題を抱えているのでそれについていくつか意見を付け加える. 

 「パラドックスたろう」は確かにネット上では評判はもっとも良いようだ. しかし, それは「小説」としての評判のよさであろうか? 私にはそうは思えない節がある. 

 この小説に対する感想として「自分の知らないパラドックスがあるかもしれない」というものがあった. これは小説に対する感想とは自分には思えない. せいぜいパズルに対する感想であろう. 

  たとえは悪いかもしれないが, この小説内でのパラドックスには良く登場人物の頭の良さを示すのに記号的に使われる「フェルマーの最終定理」や「シュレディンガー方程式」以上の役割を果たしていないように思われる. 

 数学と文学の掛け合わせを目指すのであれば, そのような記号的な役割としてではなく, もっと掘り下げた形で扱ってほしかった. そういった意味において「パラドックスたろう」はもともとのコンセプトからすると「失敗」をしてしまっているのではないか. 

  コンセプトは非常に良いからこそもっと「文学」の良さを最大限引き出さないと「数学」の良さも際立たないのではないかと私は思う. 

 

 

 

......いろいろ書いたけど, 楽しく読みましたよ, もっちょさん, きっかんさん. 

*1:タイトルの二人は著者2名のことを指すのだろうが, 実数解はよくわからなかった.