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Sokratesさんの備忘録ないし雑記帳

思考の流し台. 駄文注意. 数学以外の話も多い.

【書評】異なる二人の実数解

 こんにちは. 仮面の日曜数学者です. 

 夏(コミケ)が終わってしまいましたね......

 今日は, 昨日のコミケで手に入れたこの本について書きたいと思います. 

 

f:id:Sokrates7Chaos:20160815105811j:plain

 

 著者とは顔見知りなので, あんまり辛口すぎると禍根を残しそうで怖いなぁ, とも思ったのですが, こういう場合思いっきりやった方が友情が生まれるって聞いたことがあるので思ったことをそのまま書くことにしました. 

 キチンと自分の思ったことを伝えるためにネタバレ上等で行きますので, 未読の方はご了承ください. 

 

 さて, この本は数学に関するショートショート集である. 目次は次のようになっている. 

パラドックスたろう(前編)

問題な指示たち 

問題な指示たち(解説)

フラクタル・クッキング

w軸から来た男

もしもタルタリアとフェラーリの勝負がフリースタイルバトルだったら

パラドックスたろう(後編)

パラドックスたろう(解説)

あとがき

 解説は対応する小説の数学的側面の書いてある部分である. 個人的には「解説の必要な小説ってなんだよ!」という感じだ. 注釈だろせめて!  

 上記の話のうちパラドックスたろう(前編)は作者が公開をしてくれている. 

motcho.hateblo.jp

 

 全体的な構成としては, 文字が大きく行間が広く目に優しいモノになっている. 使用ツールはフォントから察するにおそらくWordだろうか?

 各節は完全に独立をしていて, 他の節との関わりは(数学という共通点を除いて)一切ない. また, 数式はほとんど出てこない.

 通して読んでも結局タイトルの意味は分からなかった*1

 さて, それぞれの節に対して個別にコメントをしていこう. 

パラドックスたろう

 前編と後編で趣の違う話なので分けて議論をするべきのような気もするが, あえてまとめて感想を述べる. 

 話としては童話「桃太郎」をベースとしたパラドックスをテーマにしたものだ. 

 ネット上ではこの話が一番人気があるようだが, 自分にはあまり面白いとは思えなかった. 

 文章中にはパラドックスをネタとした文がたくさん出てくる. しかし, それらの文は鼻につくだけで, 後の伏線になっているのかと思いきやそういうわけではなかった. 必然性のない文の羅列に私には思えた. そういったギャグなのであればもう少し一つ一つのネタを大事にするべきであると思う. なんというか大量の有名なパラドックスを並べただけで, 小説として書く必要がないように思った. 

  一応, 話全体もタイムパラドックスネタになってはいるが, それをやりたいのであれば前編からしっかり伏線を張らないといけない. タイムパラドックスネタは伏線の張り方が面白さの5割ぐらいを占めるのだから. 

 やるのであれば, 一つのパラドックスを掘り下げる方向でやった方が良かったと思う. 

 ついでに言うならば, 選択公理パラドックスに含めるのはやめてくれ! 

問題な指示たち

 個人的にこの本で一番面白いと思ったのはこの話だった. 数学の問題を現実世界で再現させようとする謎の組織に振り回される男の話. 名作ではないが良作ではあると思う.  

 文それぞれも読みやすく, 話もわかりやすかった. ただ, ここで言うわかりやすさは話の筋が単純だからで, もう少しひねりがあるとより面白かったように思う. 

 僕の中での具体的なプランとしては「主人公が謎の組織の正体に迫るためにさまざまな策を講じるが, それがことごとく数学の問題にされてしまう」みたいなプロットはどうだろうか? まぁ, このプロットだともう少しページ数が必要になるが...... 

 さて, この話の解説のページに2点ほど細かな間違いがあったので, そこを指摘しておきたい. 

1. 速度の計算の項

「距離$=$速度$\times$時間」「速度$=$距離$\div$時間」「時間$=$距離$\div$速度」の関係を述べるのに「移項」という言葉が使われていたがそれは誤りである. 

 移項と言うのは左辺から右辺に項を移動する際, 正負を逆転して異動させることで等号を保ったまま式を変形させる手法

\begin{align*}a+b&=c\\ a&=c-b\end{align*}

のことで, 

\begin{align*}\frac{a}{b}&=c\\ a&=bc\end{align*}

という変形は移項とは呼ばない. 「等号の性質」によって変形できるなどと言っておけばよかったのだと思う. 

2. 年齢算

 年齢算の解法として用いるのは棒グラフではなく「線分図」と呼ばれる別物である.  

フラクタル・クッキング

 フラクタルをテーマにした料理本のパロディ. 

 フラクタルって誤解されやすいよね. 

w軸から来た男

 それなりにおもしろくはあったが, 設定に矛盾が多く若干イライラした. 

 一番変だなと思ったのは, 劇中設定では死んだら4次元に行くとのことであったが, その割には3次元人の発見がごく最近であるかのような発言があった. 3次元人が死んだら4次元に行くのであれば, 発見自体は早くてもよさそうな気がするのだが......  

 細かいことだがw軸のwはイタリック体$w$で出してほしかった. 

もしもタルタリアとフェラーリの勝負がフリースタイルバトルだったら

 後半はよくわからなかったので, 前半の数学史の部分について2つ疑問を持ったのでそこを提示したい. 

 1. 数学試合で3次方程式を解かせるタイプの問題が多かったという話は寡聞にして存じ上げないのであるが, どこが出典であろうか? 出典をぜひお教え願いたい. 

 2. 「カルダノが3次方程式の解法を公開した理由はフェラーリが4次方程式を発見したことである」と書かれているがそういった文献を残念ながら私は知らない. これも出典を教えてほしい. 

 

 総じて, 試みとしては大変面白いが, 狙っている効果がうまくいっているとは思えない作品が多かったように感じる. 数学と文学を掛け合わせるという試みを作品にすることの難しさを感じた作品集であった.  

 

 さて, 最後に数学と文学といえばということで次の二つの本を紹介しよう.  

 1つ目はこの本である. 

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

 

数学をつくった人びと〈2〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

数学をつくった人びと〈2〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

 

数学をつくった人びと 3 (ハヤカワ文庫 NF285)

数学をつくった人びと 3 (ハヤカワ文庫 NF285)

 

   悪名高い数学者伝説捏造本である. 著者は数学者としてよりもSF作家として著名な人間なのである程度仕方ないのであろう. この本を読む際はある程度嘘が混じっていると思って読むのが最も良いと思う. これも一つの数学を題材にした文学であろう. 

 

 2つ目は少しマニアックであるが, 次の連続体仮説を題材にしたSFである. 

ホワイト・ライト (ハヤカワ文庫SF)

ホワイト・ライト (ハヤカワ文庫SF)

 

  

White Light

White Light

 

  著名なSF作家Rudy Ruckerの数学SFである. 事情があってまだ読みかけなのであるが, なかなかにおもしろい. 残念ながら日本語版は絶版になってしまっているようであるが, 機会があればぜひ一読していただきたい逸品である. ちなみに私は神保町の古本屋で発見した. 

 

追記 0815

 どうも知らぬ間に手加減をしていたようで, 伝わり切っていないようなので少し加筆をいたします. かなり手厳しいとは自分でも思いますが, そこはコンセプト自体には共感を覚えているからであって, こういった作品群の質を高めるために必要と思うからです. そのあたりをご了承の上, ここから先もお読みください. 

  

 これらの作品群のうち, 「パラドックスたろう」が最も根本的な問題を抱えているのでそれについていくつか意見を付け加える. 

 「パラドックスたろう」は確かにネット上では評判はもっとも良いようだ. しかし, それは「小説」としての評判のよさであろうか? 私にはそうは思えない節がある. 

 この小説に対する感想として「自分の知らないパラドックスがあるかもしれない」というものがあった. これは小説に対する感想とは自分には思えない. せいぜいパズルに対する感想であろう. 

  たとえは悪いかもしれないが, この小説内でのパラドックスには良く登場人物の頭の良さを示すのに記号的に使われる「フェルマーの最終定理」や「シュレディンガー方程式」以上の役割を果たしていないように思われる. 

 数学と文学の掛け合わせを目指すのであれば, そのような記号的な役割としてではなく, もっと掘り下げた形で扱ってほしかった. そういった意味において「パラドックスたろう」はもともとのコンセプトからすると「失敗」をしてしまっているのではないか. 

  コンセプトは非常に良いからこそもっと「文学」の良さを最大限引き出さないと「数学」の良さも際立たないのではないかと私は思う. 

 

 

 

......いろいろ書いたけど, 楽しく読みましたよ, もっちょさん, きっかんさん. 

*1:タイトルの二人は著者2名のことを指すのだろうが, 実数解はよくわからなかった.

夏休みだ. 読書感想文だ! 小中高生向け数学書紹介だ!!

 仮面の日曜数学者です. 

 世間ではそろそろ夏休みのようです. 私はむしろこの時期がもっとも忙しかったりするので, 夏休みは苦しい季節だったりします.......

 

 さて, そろそろ小中高生が読書感想文などに悩み始める時期かなぁ, ということでそんな子供たちのための数学書を並べてみようと思います. 読書感想文に悩んでいる理系っ子よ, 頑張れ! 

 今回は次のような基準で本を選びました. 

1. 小学生, 中学生, 高校生が読んで(たぶん)わかりそうなもの. 

2. 自分が読んだことのあるもの(またはそのリメイク, 再販)

3. マンガではない本(現状, マンガを学校の宿題に採用することを渋る教師が多いことを鑑みて......)

 それじゃあ, 張り切っていきましょう! 

(疲れすぎてテンションがおかしい.

 

【小学生~中学生くらい向け】

数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜

数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜

 

  子供のころに読んで楽しかった本です. 確か小学生のときに通っていた塾の本棚に紛れ込んでいたのを貸してもらって読んだのがファーストコンタクトです. この本と同じくらいの時期に父が買ってきたマンガ おはなし数学史―これなら読める!これならわかる! (ブルーバックス)*1の2冊が自分の数学好きの原点かもしれません. 

 赤い悪魔に導かれて, ロバート君が数学の世界を探検する話です. 

 登場する用語が独特で, ルートを「大根を抜く」と表現していたりします. 何となくですが「点の代わりに椅子, 直線の代わりに机, 球面の代わりにビールと呼ぶことにしても幾何学はできる」と宣言したヒルベルト形式主義のにおいを感じます(知ったかぶり). 

 用語はともかく内容の一部は高校以上のことに触れていたりしますね. なぜか$1+1=2$のラッセルの証明(を試みた跡)が載っているし......

 実家を出るときに父にねだって買ってもらったモノを売ってしまったのですが, 数年前, 本屋で見かけて懐かしくなりつい自分のお給料で買ってしまいました. 

 

【中学生向け】

はじめまして数学 リメイク

はじめまして数学 リメイク

 

 この本のリメイク前の本を全巻中学生の時に読みました. 当時は寝る間も惜しんで夢中になって読んだ記憶があります. 

 数の直感的「イメージ」から始まり, 記数法などの話やベクトルを使った足し算引き算のイメージの話, 虚数の話などをへて可算濃度の話にたどり着きます. 

 一部表現に誤解を招きそうだと感じる箇所がいくつかありますが, そういった箇所を自分で探すのも勉強かもしれません. 

 

【中学生~高校生向け】

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

  言わずと知れたサイモン・シンの名著ですね. ちょっとページ数が多いので読むのが大変ですが, 読書感想文の題材としては良いかも. 

 幾人もの数学者を歴史の闇に葬ると共に数学の歴史を大きく動かしたフェルマー予想が解かれるまでの過程を書いた本です. 

 同じ作者の次のシリーズも読書感想文の題材としては良いかもしれません. 

 こちらは我々の生活を支える「暗号」の話です. 

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

 

 

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

 

 

【中学生~高校生向け】*2

文庫 放浪の天才数学者エルデシュ (草思社文庫)

文庫 放浪の天才数学者エルデシュ (草思社文庫)

 

 

放浪の天才数学者エルデシュ

放浪の天才数学者エルデシュ

 

  

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)

 

 

ビューティフル・マインド: 天才数学者の絶望と奇跡 (新潮文庫)

ビューティフル・マインド: 天才数学者の絶望と奇跡 (新潮文庫)

 

 

 数学者の伝記シリーズ. このあたりしかぱっと思いつかなかったけれど他にもたくさんありそうです.  これらも読書感想文にぴったりです. 

 ただ, ガロア周辺の伝記シリーズは注意深く選んだ方が良いです. 悪名高い数学をつくった人びと (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)のシリーズの誤った記述を真に受けて書かれた本も多いからです. 

 特にコーシーがガロアを評価していなかったという記述がある本は間違いなく誤りです. コーシーがガロアを高く評価していたという記述のある手紙が発見されていますので......

 

【高校生向け】

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

 

 高校生, 読書感想文あるのかなとも思うのですが, 一応.

 結城先生の有名な本ですね. いまだに続編が書かれているのでやはり人気があるのでしょう. 個人的には一番最初の巻が読んでいて一番面白かったです. 

 内容は主人公の「ぼく」が「ミルカさん」という美人天才女子高生と「テトラちゃん」というかわいい後輩といちゃいちゃしながら数学をする話です(我ながら身もふたもない説明. 結城先生ごめんなさい......). 

 たまにこのストーリーが邪魔になる程度に「数学」の部分は結構しっかりしています. 

 

【高校生向け】

オイラーの贈物―人類の至宝eiπ=-1を学ぶ

オイラーの贈物―人類の至宝eiπ=-1を学ぶ

 

 みんな大好きオイラーの公式\[e^{i\theta}=\cos\theta +i\sin\theta\]の高校生向けの解説本ですね. 文庫版で持っています. 

 電卓周りの記述は正直蛇足だなと思うし, 人類の至宝は$e^{i\theta}=\cos\theta +i\sin\theta$であって, $e^{i\pi}=-1$はそこから自明に出てくる式なのでなんだかなぁという気もしますが, 入り口としては良いでしょう. 

 読んだことはないですが下の本も同著者では有名ですね. 分厚すぎて読む気が起こらなかったが......

虚数の情緒―中学生からの全方位独学法

虚数の情緒―中学生からの全方位独学法

 

 

【番外】

円周率1000000桁表

円周率1000000桁表

 

    「数表で読書感想文かけるか!!」と思うのですが, ここの出版社なぜかこの本で読書感想文を募集していたりします. 

15/05/27:円周率100万桁表読書感想文コンクールについて :暗黒通信団

 誰が募集するんだろうと思っていたら, 募集があったみたいで驚きです. 物好きだなぁ. 

 ここの出版する本で高校生でも読めそうな本が一冊だけあったのでそちらも紹介しておきましょう. これを読書感想文に使うのもありかも. 怪しい名前の団体から出ているけど, 内容に変なところはないです. あるとしても誤植くらいです. 

整数論のための前菜

整数論のための前菜

 

 

 僕に思いつくのはこのぐらいです. 結構自分にとって懐かしい本が結構ありました. これ以外にも良い本はきっとありますから, 本屋に行って探すなりAmazonのサジェストに従うなりすると良いと思います. 

 それでは小中高生の皆さん, 宿題頑張ってください! おじさんも陰ながら応援しています. さよなら. さよなら. さよなら. 

*1:マンガなので今回は除外......

*2:小学生向けにしようか迷ったのですが, ここに挙げた本は小学生向けとは言い難いのでこれで......

【速報】日曜数学を冠した本が出版される

 みなさん, こんにちは. 

 仮面の日曜数学者です. 

 

 なんと, 日曜数学を頭に冠した本が出版されたらしいです. 

日曜数学者のための命題論理入門C0H

日曜数学者のための命題論理入門C0H

 

 

 著者名なんて読むんだろう......?

 円周率で有名な暗黒通信団から出ているっぽいですね. あそこは何を考えているんだ. 

 表紙を見る限り, 完全性について主張しようとしているんでしょうか?

 

 実物をまだ手に入れていないのですが, 値段が378円って書いてあるので, そのうち本屋で手に入れてみようかと思います. 読んだら感想をここに書こうかと思っています. 

 いったいどんな本なのでしょうか......?(トンデモじゃないかと不安な顔

 こわいなぁ, こわいなぁ......

今日もバカ噺を一つ

 仮面の日曜数学者です. 

 

 キチンとした記事を書こうとすると, やっぱり時間がかかるので今日もバカ噺を書こうかと思います*1.

 今, 白雪姫がケーキを統計を使って公平に分割する話がはやっているようなので, そういった噺を一つ. 

motcho.hateblo.jp

 

統計に詳しいという噂のJは絶対に飛行機に乗らないことを公言している. 

曰く「飛行機には爆弾がのせられている確率が高い」からだそうで. 

そんな彼を飛行場で見かけた. なんと飛行機の搭乗待ちらしい. 

なぜだろうと思って話を聞いてみると

「飛行機には爆弾が一個乗っている確率は高いが, 二個乗っている確率が低いことが分かった. 特に一個一個別々に飛行機に乗せられる確率はかなり低い. だから, すでに一個持ってきた」

 

*1:キチンとしたのも並行して書いていますが, 間違ったことを書きたくないので, 取材に時間がかかります......

数学小噺を一つ.

 仮面の数学者です. 前回の更新が2か月前なんて信じない......

 毎日のようにブログを更新できる人を僕は心の底から尊敬しています. 創作で最も難しいのは最後まで作品を完成させることだっていうけど, ブログも同じような気がします. 

つまり, 大事なのは根気......

 

 今日書こうと思い立ったのは「数学ジョーク」についてです. 

 

 数学やっている人は意外とジョークが好きです. 一番の好例は存在しない数学者をあたかも存在するかのように扱ったBourbakiの件でしょう. 彼らの場合フランス人なので「えすぷり」ってやつですかね.

 

 そんなわけかどうかはわかりませんが, 世の中には「数学」をテーマにしたジョークがたくさんあります. 今日はその中から有名なものを一つ. 

 イギリスのコンウォールの大草原の中を汽車が走っていく. その中で学会帰りの天文学者, 物理学者, 数学者, 生物学者が談笑していた. そんな4人の目の前の草原に黒い動物がいるのが見える. 天文学者が言う. 

「コンウォールのヤギは全身が黒いんだなぁ」

それを聞いた物理学者が笑いながら

「それは少し正確じゃない. コンウォールにいるヤギのうちの一匹の全身が黒いんだ」

それを聞いた数学者はボソッとつぶやいた. 

「それだから君らはよく間違いを犯すんだ. もっと正確にはコンウォールにいるヤギのうちの一匹は少なくともこちら側が黒いんだ」

それを聞いていた生物学者, 笑いをかみ殺しながらこういった. 

「君たち, あれは羊だ. 」

 

非参考文献

 個人的に落語が好きで昔, 天狗連っぽいことをやっていました. そんなときにこういった数学ジョークを使っていました. そんなわけで好きな落語の本をここに置いておきます. 

落語こてんパン (ちくま文庫)

落語こてんパン (ちくま文庫)

 

 

同じということ―定義のはなし―

仮面の日曜数学者です. 

約一か月ぶりの更新です. 新しい年度が始まってバタバタしてました. 

 

 知り合いの中学生から聞いたのですが, 昨今の数学の先生の中には「数学の定義は一字一句全く同じでなければならない」と思い込んでいる人がいるそうです. 

 その子が出会った事案としては素数の定義についてテストで「1より大きい自然数の中で約数を1とそれ自身の他に持たないもの」と答えたところバツをもらったそうです. なぜかというと素数の定義は「1より大きい自然数の中で約数を1とそれ自身のみであるもの」と教えたからだそうです. とても悲しい事件です. 国語力の低下が叫ばれる理由もわかります. 

 

 まぁ, 学校の数学の先生が数学をわかっていらっしゃらないのはいつものことなので, そのことを批判する気はありません*1が, 今回は数学における「同じ」とは何かについて少し書いてみようと思います. 

 

 同じ対象だけれども違う定義があるものとして, 自然対数の底$e$が最初に思いつきます. もちろんここでいう「定義が違う」とは先の例の教師のような日本語レベルのゆれの問題ではありません. 

 

 私が知っているだけでも次の3つがあります. 

 

1. 次の等式を満たすような$e$を自然対数の底という.  \[\lim_{h \to 0} \frac{e^{1+h}-e^1}{h} =e. \]

2. 次の極限\[\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac1n \right)^{n} \]の行き先を自然対数の底という. 

3. 次の級数\[\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}\]の行き先を自然対数の底という. 

 

 これらの定義が「同じ」であるというのは「論理的に同値である」からです. すなわち,

定義1. $\Leftrightarrow$ 定義2. $\Leftrightarrow$ 定義3.

 が成り立ちます*2

 同様にして論理的に同値であれば同じものを「定義」できます. 素数も「自然数のうち約数を2つのみ持つもの」などと定義してもよいわけです. 

 そのように多くの定義を持つものは多くの場合「抽象的」なものであることが多いです. たとえば, 群, 位相空間, 連続写像etc. 

 

 なぜそのように定義が複数あるものがあるのか? おそらく「同じ構造」を持つことがわかっていれば, 数学的には同じ対象で, どの定義から話を始めるのが一番楽かということなのでしょう. 定義はもちろん大事ですが, それが表す対象がなんであるかということが最も大事だと思います. 

 

 そういった数学的対象がどこにいるのかという問題は難しいのでまたの機会に. 

 

そんなわけでGW楽しんでいきましょう. 

 

 

ところで, 自然数の定義に0は含むべき異論は認めない. 

*1:しする気も起きません. あきらめました.

*2: $\Leftrightarrow$は「左辺から右辺が証明できかつ右辺から左辺が証明できる」という意味だと思ってください.

私的日曜数学者のための入門書まとめ―線型代数編―

こんばんは. 仮面の日曜数学者です. 

アオイホノオを見ながら「青春時代って痛々しいよね」とやっています.  

 

今回は下の記事の続き. 

sokrates7chaos.hatenablog.com

  誰にも望まれていない感はありますが, 中途半端で終わらせるのはやっちゃいけないとじっちゃがいっていたので, 書こうと思います. そんなわけで, もう一つの大きな柱「線形代数」編のはじまりはじまり. 

 

 今回の基準は次の通り. 

(1) 和書であること*1

(2)  「入門書」であること. すなわち前提知識が高校数学程度のもの. 

(3)  ある程度の定評があるもの(つまり私が評判を聞いたことがあるか実際に読んだことのあるもの). 

(4)齋藤 正彦の『線型代数入門』と同程度の内容であると推測されるもの. 

 例によって最後の(4)は某先生のおすすめですね. 

 

 と言いつつ, 自分が目を通したことのある線型代数の本は数冊しかなかったので, 前回よりもボリュームダウンして2冊しか上げられないことに気が付きました. ホントにこの企画に不適当な人間だなワシ......

 しょうがないので, 番外をつけてごまかします. 

[1]齋藤正彦「線型代数入門」東京大学出版

線型代数入門 (基礎数学1)

線型代数入門 (基礎数学1)

 

 

線型代数演習 (基礎数学 (4))

線型代数演習 (基礎数学 (4))

 

 

 はい. 一つ目はみんな大好き齋藤線型代数ですね. 大学に入って最初に買った教科書以外の線型代数の本だったりします. 実は最初にきちんと読もうとした本なのですが, 第3章あたりで挫折した記憶があります. ←だめじゃん. 

 この記事を書くにあたって, 久しぶりに引っ張り出してきましたが「今なら読めるぞ」ってやってます(ほんまかいな). 

 自分の手元の線型代数の本の中では解析系の話題がまとまって載っている(第7章)のが良いです. 

[2]佐武一郎『線型代数学』裳華房

線型代数学(新装版) (数学選書)

線型代数学(新装版) (数学選書)

 

 2冊目は, 最近新版が出て話題になった佐武線型代数です. 自分が持っているのは旧版の方ですね. 

線型代数学 (数学選書 (1))

線型代数学 (数学選書 (1))

 

  某氏が「数学系のM1になりたい人が入院の前に読み切るべき本」と言っていたことを思い出します. こちらは最終的にテンソル代数に向かっていきます. 齋藤先生の本とはちょっと方向性が違うので, 単純な比較はできませんが, こっちの方が少しだけ読みやすかったイメージがあります.  ところどころで「研究課題」という章があるのが面白いです(今まで以上に薄っぺらい感想). 

[番外]長岡亮介線型代数入門講義――現代数学の"技法"と"心"』東京図書

長岡亮介線型代数入門講義―現代数学の“技法”と“心”

長岡亮介線型代数入門講義―現代数学の“技法”と“心”

 

 たぶんこの中で一番"簡単"な本. これだけ分厚いのにJordan標準形で終わるという圧倒的な「丁寧さ」がすごい. その分応用についてはすこし物足りなかった記憶がある. 明らかに(4)の基準は満たされていないので, 「番外」とした. これで数学の考え方に慣れて, その後に上の本に改めてアタックするというのもひとつの手ではないだろうか......

 というか, 自分がそんな感じだった. ある意味, 今回紹介した中では一番日曜数学者向けの本かもしれませんな. 

 

 ところで, 行列式の定義ほとんどの本では置換を用いて定義しているのですが, 個人的には次の定義が好きです. 

(i) detは多重線型性を持つ. 

(ii) detは列, 行に対して交代性を持つ. 

(iii) det(I)=1. ただしIは単位行列.  

 こちらの方が実際の計算を示唆してくれるので, カッコよくないですかそんなことないですかそうですか. 

 

 そんな感じで線型代数の回を終了したいと思います. 

 最後に昨今, 「線型代数詐欺」が横行しております. 講演内容として「線型代数」を謳っておきながら「関数解析」や「多様体」の話を始めるというものです. みなさまどうぞお気をつけなさいませ. 

*1:洋書を含めたまとめはry

私的日曜数学者のための入門書まとめ―微積分編―

 どうも仮面の日曜数学者です. 

 前回変な記事を書いたおかげでいろいろ吹っ切れて感じるままに記事書くかと開き直ったら気が楽になりました. ブログって元々日記を公開することで自己顕示欲を満たすためのツールですよねっ!←たぶん違う. 

 

  さてさて, この前知り合いの日曜数学者が「難しい数学に手を出したいけど, どこから手を出せばよいかわからん」という発言を某生放送でしていて「あぁ, なるほどな. 好きなところから手を出せばいいと思うんだよな. でも, 数学の世界広すぎてどこから手をだせばいいかわからんのも一理あるな」という感想を抱いてたのですが, そんな折, 某W大のセンセイ某SNSで「数学書を軽く読むのに必要な基礎力は『微積分』と『線形代数』である」という趣旨の発言をされていて, 「なるほど確かに. 何から始めればわからないマンはその辺からやればよいのかぁ. じゃあどういう本を読めばいいかのまとめとか作ったら喜んでもらえるかなぁ」という気分になりました. 

 

 まぁ, そういったことをやるには僕は適切な人間か怪しいですが, たたき台ぐらいにはなるだろうと思うのでとりあえず作ってみました*1. おかしなところや「いやこれも上げろや」というテキストがあれば指摘をお願いします. 

 

 そんなわけで解析弱者による「日曜数学者のための入門書まとめ―微積分編―」のはじまりはじまり*2

 

 と言っても「微積分」の本は星の数ほど出ているかと思うので以下の条件で絞り込みました. 

(1)  和書であること*3.

(2)  「入門書」であること. すなわち前提知識が高校数学程度のもの. 

(3)  ある程度の定評があるもの(つまり私が評判を聞いたことがあるか実際に読んだことのあるもの). 

(4) 高木貞治の『解析概論』と同程度の内容であると推測されるもの. 

 (4)は冒頭の話に出ていた某先生の推薦書が高木貞治の『解析概論』だったからですね. 

 以下の順番は思いついた順なので, おすすめ順とかではありません. 好みの問題があると思うので, 自分が良いと思うものを選べばよいと思います. 読み比べると面白いかもしてません. 

 

[1] 高木貞治『解析概論』岩波書店

定本 解析概論

定本 解析概論

 

 おそらく, 日本の解析学入門の祖みたいな存在の本ですね. 以下に挙げる本のほとんどすべての参考文献に上がっていたイメージがあります. 高木貞治先生の著作権は切れている*4はずなので, オープンソース化されているかと思っていたのですが, まだのようです. 一応下のようなプロジェクトは始まっているようであります. 

Wikisource:高木貞治プロジェクト - Wikisource

 高木先生は他にも整数論の本を書いていらっしゃることで有名ですね. こちらは上記のプロジェクトに一部内容が上がっています.  

代数学講義 改訂新版

代数学講義 改訂新版

 

 

初等整数論講義 第2版

初等整数論講義 第2版

 

 一応参考のため. 

 

[2] 小平邦彦『解析入門』岩波書店

軽装版 解析入門〈1〉

軽装版 解析入門〈1〉

 

 

軽装版 解析入門〈2〉

軽装版 解析入門〈2〉

 

 小平解析と呼ばれることもあるシリーズ. 高木先生の本は「実数の構成」については付録に回していらっしゃったのですが, 小平先生は「Dedekind Cut」を使って「実数を構成」していらっしゃいます. 大学に入って初めて買った解析学の本だった記憶はあるのですが, いつのまにかどこかへ行ってしまいました(). ←おい

 たぶん, 僕の部屋のどこかにはまだあると思うのですが......

 確かLebesgue積分だけは載っていなかったので他の本を参照する必要があるかと思います. 

 

[3]杉浦光夫『解析入門』東京大学出版

解析入門 (1)

解析入門 (1)

 

 

解析入門 (2)     基礎数学 3

解析入門 (2) 基礎数学 3

 

 みんな大好き杉浦解析です. 初等解析に関してはこの本に載っていることで大概解決する説ある. 通しで読むにはかなりの力が必要かと思いますが, 辞書として使うのもありかもしれません. この本では実数を公理的に扱っています. すなわち「連続性を持つ順序体」として「実数」が同型を除いて一意に定義されています. 

 最近この本をキチンと読み込まないとなぁという機運が高まっています. 

 Riemann積分を主に扱っているので, Lebesgue積分については他の本をあたる必要があります. 

 

[4] 宮島静雄『微積分学』共立出版

微分積分学〈1〉1変数の微分積分

微分積分学〈1〉1変数の微分積分

 

 

微分積分学〈2〉多変数の微分積分

微分積分学〈2〉多変数の微分積分

 

 この本だけキチンと目を通したことがありません. 本屋でチラ見をした程度です. ただすごい読みやすかったイメージがあります. 数学系ではない友人Aに「微積分学」の本のおすすめを求められたときに, 適切な本が思いつかなかった私が, 他の数学系の友人Bに相談した際, Bに推薦された記憶があります. 

 

 

こんなところでしょうか......

他に良い本があれば教えてください. 

 

最後に「たくさん本を知っている奴は数学できないことが多い」というある人に言われた金言を残しておしまいにしたいと思います. ありがとうございました. 

*1:きっと僕より強い人たちがもっと適切なまとめを作ってくれる.

*2:誰が得をするんだ.

*3:洋書を含めたのはきっともっと適切な人がやってくれる.

*4:2010年に没後50年経過.「日本で最初の国際的数学者」と呼ばれるだけあって, かなり昔の方です.

ブログの記事って何を書けばよいのか迷う.

どうも仮面の数学者です. 

 

 今日はただの雑談. 数学どころか読者の大部分が興味ないであろう内容がないようなことを書き散らします. 

 

 ブログの記事って何を書けばよいのか困る. Twitterだとそれほど考えなくてもぽんぽん書けちゃうときがあるが, ブログになったとたん何を書けばよいのか迷う. 

 文字数が増えるためだろうか? もしくは, 文字数が増えるためにまとまった内容のことを書かなくてはと気負ってしまうのが一番の原因かしら? 

 今まで書いてきた記事のほとんどが1000文字は超えていることを考えると後者が一番近いような気がする. 

 せっかくなのでシリーズものの記事でも書いていこうかしらなどという気分にもなるがあきっぽいわたしにそんなことできるのかしらなどと, ぐだぐだ考えてしまう. 

 

 とりあえずTyconoffの定理が出てきたことだし, Tyconoffの定理に向けて位相空間の定義からつらつら書いていこうかなどという計画も立てたが途中で投げ出しそう. 

 そんなわけで雑記帳と言っているのだから適当なことをたまには言ってもいいよねということで自己満足の雑記を載せてみる. 人間のクズ度が上昇していくのを感じる......

 すさまじい知性のなさを発揮してしまった. もう寝るか. 

コンパクト性定理とTychonoffの定理

どうも仮面の数学者です. 

 気が付いたら一か月以上このBlogを放置していました. ずぼらで申し訳ない......

 

 今回は数学基礎論サマースクール2015にて, 教えてもらった「(命題論理の)コンパクト性定理」を「Tychonoffの定理」から証明する話です. 部屋の大掃除をしていたら, 数学基礎論サマースクール(以下基礎論SS)のときのノートが出てきたので, 自分用のまとめも兼ねて書くことを思い立ちました. 

 

コンパクト性定理とは以下のようなLogicの定理である(この定理に含まれる用語などは後で解説, 定義する). 

[コンパクト性定理]

理論$T$に対して次の(1), (2)は同値である. 

(1)「$T$はモデルを持つ」

(2)「どんな$T$の有限部分集合もモデルを持つ」

 

 対して, Tychonoffの定理は次のような位相空間についての定理である. 

[Tyconoffの定理]

位相空間の族$\left\{S_{\lambda}\right\}_{\lambda\in\Lambda}$の直積空間を$S=\prod_{\lambda\in\Lambda}S_{\lambda}$とするとき, $S$がコンパクトであるためには, すべての$\lambda\in{\Lambda}$に対して$S_{\lambda}$がコンパクトであることが必要十分. 

 

 この二つは一見つながりがあるように見えないが, Tychonoffの定理を使うとコンパクト性定理を示すことができる. どうもこの辺りの関係が「コンパクト性」と言われる由縁のようである. 

 

 今回は人口的になじみの薄い人が多いであろうLogic側の定理であるコンパクト性定理の主張を理解するために必要な言葉の定義をして, Thyconoffの定理からコンパクト性定理を証明してみよう*1.

 

 「Logicとはどのような学問であるか」と問われると, どのように答えても炎上するような気がするが, ある一面の捉え方(これなら燃え上がらないと思いたい)としては「記号列とその意味世界についての数学」と言えると思う. 

 今回扱う「記号列」は「命題論理」と呼ばれる人工的な「言語」である. この「言語」は「命題同士の関係」について記述ができる世界(体系)ではあるが, 逆にそれ以上のことは表現できない体系である*2

 まずこの「言語」で使われる「記号」の集合を定義しよう. 

 [定義:記号]

「命題論理」の記号の集合\Sigma は以下の記号の集まりである. 

・命題記号 

\begin{align*}&{A, B, C, D, }\dots;\\&{X, Y, Z, }\dots;\\&{A_1, A_2, A_3, }\dots.\end{align*}

・論理記号

\[\lnot, \land, \lor, \to. \]

  論理記号についてはLogicになじみのない人々でも見たことがある人が多いように思われる.

 一応なじみのない人のために少しだけ解説すると$\lnot$は「否定」, $\lor$は「または」, $\land$は「かつ」, $\to$は「ならば」などと呼ばれることが多いと思う. ここではただの記号でしかないので「意味」というものを考えてはならないが, 気持ちとしてはそういったものを含んでおり, 実際, 後でそういったものを意味するように「記号」の意味を定義する. 

 

 これらの記号をある一定のルールに並べると論理式という「文」にあたるものができる. ラフに言えば「文法」にあたるものである. 

[定義:命題記号の論理式]

 命題記号の論理式とは次の2つの規則によって帰納的に得られる記号の有限列のことである. 

(1) 命題記号は論理式である. 

(2) $\phi, \psi$が論理式の時, 以下も論理式である. 

\begin{align*}&\lnot\phi, &\land\phi\psi, \\&\lor\phi\psi, &\to\phi\psi.  \end{align*}

 ここでいう「帰納的」とは, 「有限回これらの規則を適用して」という意味である*3

 一応, 例を挙げておく. 

[例:論理式]

以下の記号列は論理式である.

\begin{align*}&\lnot {A}\\&\to {A}\\&\lor \lnot {A}\land {BC}\end{align*}
以下の記号列は論理式ではない. 

\begin{align*}&\lnot {A}\lor\\&{A}\lnot \mathbf{B}\\&{A}\lor {B}\end{align*}

 最後の${A}\lor {B}$が論理式でないことに違和感を覚える方もいるかもしれない. 確かに, 数学徒が"ラフ"に使っている論理式などでは, ${A}\lor {B}$普通に使っている*4.

 しかし, 今回の体系では${A}\lor {B}$というのは「文法違反」なのである. 今回の体系では「かっこ」を排除したかったのでそのような記法を採用した. しかし, $\phi\lor \psi$なども扱えるようにしておいた方が後で便利そうである. そこでこれらの記号列は「略記」として扱うことにしよう. 

[定義:論理式の略記] 

$\phi, \psi, \rho$を論理式とする.

i) $\phi\land\psi$は$\land\phi\psi$の略記である. 

ii) $\phi\lor\psi$は$\lor\phi\psi$の略記である. 

iii) $\phi\to\psi$は$\to\phi\psi$の略記である. 

iv) $\%, *$を$\lor, \land, \to$のいずれかの記号とする. 

このとき$\left(\phi \% \psi\right)*\rho$を$* \% \phi\psi\rho$の略記とする. 

また, $\phi \%\left(\psi*\rho\right)$を$\%\phi*\psi\rho$の略記とする. 

$\lnot \left(\phi\%\psi\right)$は$\lnot\%\phi\psi$の略記とする. 

 以上のように定義しておけば, 数学徒が普段使っている"ラフ"な論理式を我々の体系でも略記として扱えそうである*5

 次にこれらの論理式に「意味」を与えることを考えよう. 命題${A, B, \ldots}$がどのような「意味」「ニュアンス」を持っているかは今回は興味の対象としない. 今回は「命題同士の関係」にのみフォーカスをあてるので, せいぜい${A, B, \ldots}$の真, 偽がわかればよい. そのため以下のような定義になる. 

 [定義: 論理式への真理値割り当て]

I) 命題記号全体から2値集合$\left\{\mathrm{T, F}\right\}$への関数$M$を真理値割り当てという. 

II) $M $を真理値の割り当てとする. 以下i)-iii)を帰納的に満たす命題論理の論理式全体から2値集合$\left\{\mathrm{T, F}\right\}$への関数$S$を$M $による解釈という. 

i) 任意の命題記号$\mathbf{X}$に対して, $S\left(\mathbf{X}\right)=M\left(\mathbf{X}\right)$

ii) 任意の論理式$\phi$に対して

\[S\left(\lnot\phi\right)=\begin{cases}\mathrm{F} &\text{if $S\left( \phi\right)=\mathrm{T}$};\\ \mathrm{T} &\text{Otherwise}.  \end{cases}\]

iii)任意の論理式$\phi, \psi$に対して

\begin{align*}S\left(\lor\phi\psi\right)&=\begin{cases}\mathrm{F} &\text{if only $S\left(\phi\right)=\mathrm{F}, S\left(\psi\right)=\mathrm{F}$};\\ \mathrm{T} &\text{Otherwise}.  \end{cases} \\ S\left(\land\phi\psi\right)&=\begin{cases}\mathrm{T} &\text{if only $S\left(\phi\right)=\mathrm{T}, S\left(\psi\right)=\mathrm{T}$};\\ \mathrm{F} &\text{Otherwise}.  \end{cases}\\ S\left(\to\phi\psi\right)&=\begin{cases}\mathrm{F} &\text{if only $S\left(\phi\right)=\mathrm{T}, S\left(\psi\right)=\mathrm{F}$};\\ \mathrm{T} &\text{Otherwise}.  \end{cases}\end{align*}

 この定義の後半の気持ちは以下のようなものである. 

 

 Tはtrue, Fはfalseの頭文字である. それぞれの意味するところは良かろう. 日本語ではTは「」, Fは「」などと呼ばれることもある. 

 $\phi\land\psi$が真になるのは, $\phi, \psi$が同時に真になる時であり, $\phi\lor\psi$が真になるのは, $\phi, \psi$のどちらか少なくとも一方が真になる時である*6. これらに異論はないであろう. 

 $\phi\to\psi$については事情は複雑である. 4つのケースに分けて考えてみる. 

 

i) $\phi$が真で, $\psi$が真の時

ii) $\phi$が真で, $\psi$が偽の時

iii) $\phi$が偽で, $\psi$が真の時

iv) $\phi$が偽で, $\psi$が偽の時

 

 i)の時に真でii)の時に偽なのは異論がないと思われる.

 iii), iv)のときにどちらも真になるのは「前提が間違っているときには結論が真だろうが偽だろうが, その文章全体としては真」というものである*7. 開き直って, この体系での$\phi\to\psi$は$\lnot\phi\lor\psi$と同じ意味と思ってもよいかもしれない. 

 

  さて, 以上のような準備の下で「理論」と「モデル」を定義しよう. 

[定義: 理論, モデル]

i) 命題論理の論理式の集合(有限でも無限でもよい)を理論(theory)という. 

ii) 理論$T$を解釈によって, すべて真にするような真理値割り当てを$T$のモデルという. 

iii) 理論$T$と論理式$\phi$に対して\[T\models\phi\]とはどんな$T$のモデルに対しても$\phi$を真とする時をいう. 

iv) $T$が空集合の時, 単に$\models\phi$と書き, このような$\phi$をトートロジーという*8

 論理式の集合を理論と呼ぶのは不思議に思うかもしれないが, これは気持ちとしては「公理」を意味しているのである. ホントはここから「推論」を定義し, 「公理」から「定理」を証明するという風に話(構文論)を持っていくのが普通であるが, (長くなるので)今回は割愛することにする. 

 例だけは出しておく. 

[例:理論, モデル]

$T=\left\{{A}, \land{A}\lnot{B}\right\}$のモデルは

\begin{align*}M\left( {A} \right)&=\mathrm{T}\\ M\left( {B} \right)&=\mathrm{F}\end{align*}

というものを満たす真理値割り当てである. 

  さあ, これでコンパクト性定理に出現する用語の定義はすべて出そろった.  

 Thyconoffの定理からコンパクト性定理を証明しよう.

 

[証明]

(1)$\Rightarrow$(2)は自明.

(2)$\Rightarrow$(1) を示す. 

 真理値の集合$I=\left\{\mathrm{T}, \mathrm{F}\right\}$に離散位相が入っているものとして扱うこととする. 

 $P$を \Sigmaに含まれる命題記号すべての集合とする. 

 $P$を添え字集合として$I^P$という積位相空間を考える.

 $I$がコンパクトであるから, Thyconoffの定理よりこの空間はコンパクトである. 

 $S$を理論$T$の有限部分集合として, 

\[C_S:=\left\{v\in I^P\left|\text{$v$は$S$のモデル}\right.\right\}\]

を考えると, この$C_S$は$T$の有限部分集合にはモデルが存在することから空ではない. また明らかに閉集合である. 

このとき, $\left\{C_S\left|S\text{は$T$の有限部分集合}\right.\right\}$は有限交差性を持つ. 

 実際$S_1, S_2$を$T$の有限部分集合とすると, $C_{S_1}\cap C_{S_2}$は$S_1\cup S_2$のモデル全体の集合になっているが, $S_1\cup S_2$もまた有限集合であるから$C_{S_1}\cap C_{S_2}$は仮定より空でない. 

$I^P$がコンパクトであることから$I^P$の閉集合の族が有限交叉性を持つとき, その族すべての共通部分は空でない. 

 すなわち, \[\bigcap_{S\subset T:\text{有限}}C_S\neq\emptyset\]

 このとき, $\bigcap_{S\subset T:\text{有限}}C_S$の元が$T$のモデルとなっている.   $\blacksquare$

 

 ふぅ, 疲れた. 

 

 自分の知らない分野同士のつながりが見えた時の感動は素晴らしいですね. 逆にコンパクト性定理からTyconoffの定理が証明されるかとても気になりますが, まだ考え中です.  

 このあたりの対応関係についてはもっと掘り下げると面白そうですが疲れたのでまた今度......

 Tyconoffの定理周辺については気が向いたらまた取り上げます. 

 

参考文献

今回詳しく取り上げたLogic側の参考文献は以下の通り. 

[1] 基礎論夏の学校2015チュートリアルのノート

http://www2.kobe-u.ac.jp/~mkikuchi/ss2015.html

[2]

数理論理学

数理論理学

 

[3]

数理論理学 (現代基礎数学)

数理論理学 (現代基礎数学)

 

[4]

Mathematical Logic

Mathematical Logic

 

 特に論理式の定義は[4]を主に参考にしました. 証明の部分は[1]のまんまです. 

 

次に位相空間についての参考文献. 最初にこの記事の話を聞いたとき, 自分が位相空間弱者なことを思い知らされました. まぁ, 数学全般弱者ですが......

[5]

集合・位相入門

集合・位相入門

 

[6] 

集合と位相 (数学シリーズ)

集合と位相 (数学シリーズ)

 

 [5]は定評のある教科書ですが, 回りくどい記述が多いかも. [6]は位相空間論に入ってからが本領発揮です. 

*1:位相空間側のThyconoffの定理については気が向けば, このblogでも取り上げようとは思うが, 今回は記事の長さの関係で割愛する.

*2:かなりラフな言い方をしているので語弊があることは認める. ちなみに私は詳しくないが, 組み合わせ論的なことはこの体系でも表現できたりするようである.

*3:こういった定義のことを帰納的定義」という.

*4:ラフって何だろうね

*5:たぶん

*6:日常会話では$\phi, \psi$のどちらか一方のみが正しい時にも使っているが, 今回はそういったケースは考えないことにする.

*7:この件に関しては様々な本にそれぞれの理由付けが書いてあるのでそちらを参照した方が良いかもしれない.

*8:下の2つは今回は使わないが気が向いたときに命題論理の構文論についての記事を書くかもしれないのでその時にでも使おうと思う.