この記事は日曜数学 Advent Calendar 2015 - Adventarの4日目の記事です.
3日目:月の明るい部分の面積を求める:このブロマガの名前は? - ブロマガ
こんにちは.
最近,「数学」を趣味としている人が増えているそうです.
数学は紙とペンさえあれば何とかなるみたいなイメージがあるらしく, お金のかからない趣味を持とうという人が足を踏み入れるのだそうです. どう考えてもミスチョイスのような気がするのですが, まぁわからないでもないです(ちなみに, 本気で数学に取り組むと結構お金と時間がかかります. 本を手に入れたり, それを読んだり, 読んだことを自分なりに解釈をしたり, 数学の話を聞きに行ったり, そこであった人と飲みに行ったり......etc. ).
そういった数学を趣味とする人々のコミュニティもたくさんあるようですが, その中に「日曜大工」とひっかけて「日曜数学会」と称する人々がいます.今日の記事はそんな「第2回日曜数学会」で話したおはなしです.
テーマは「数学の哲学」
「数学」と一口で言うが, そもそも「数学」とは何なのだろうか?
「主として, 数量および空間の性質について研究する学問。算術・代数学, 幾何学, 解析学、ならびにそれらの応用の総称」
などと書いてある.
んー, よくわからん. 数学って確かに, そんなような学問のような気もするが......
でも, これだと数理論理学とか集合論が数学じゃなくなってしまうようにも読めるし,
数学使わない自然科学の分野の方が珍しいと思うので, 「すべての自然科学は数学である」みたいなことにもなるような気がしてしまう.
もう少し質問をわかりやすくしてみよう。
「数学は何を研究する学問なのか」
......かえって難しくなったような気もするナ.
さて, この問いは実際に自分自身がぶち当たった疑問であるし, 数学をよく知らないという友人からぶつけられるものでもある.
本来であれば, 先行研究として, プラトン主義やビッグスリー(形式主義, 直観主義, 論理主義), クワインなどの話をするべきであろうが, 私は一介のフリーターに過ぎないし, 哲学の専門家や「日曜哲学者」でもないのでやめておこう. つーか, そこまで丁寧に話すと文章の量がやばいことになるし......
結論を申し上げると, 私は「数学とは何らかの意味で重要な『抽象的構造』を研究するための学問である」と考えている.
たとえば, 高校数学でもおなじみの大事な数学的考察の対象として「アルキメデス性完備順序体」がある. 「なんじゃあ, そりゃあ」と思ってこのページを閉じそうになったそこのアナタ. 安心してほしい. あなたが高校の授業を真面目に聞いていたなら, この対象の別名を知っている.
「アルキメデス性完備順序体」とは「実数」のことである. 「数直線上のすべての数」と思ってもよい.
なんで, 最初から「実数」って言わないのかだって?
そりゃあ, そうした方が実数の「構造」ってやつを浮き彫りにして紹介できるからサ.
「アルキメデス性完備順序体」という言葉を分解してみると
「アルキメデス性」「完備」「順序」「体」
と分解できると思う(今この分解に突っ込みかけたそこの君. 正しい. だが, 議論を簡単にするためにわざとこう分けた).
この名前は「実数」に「順序構造」「代数構造」などが含まれていることを示している.
前半の二つは「極限についての構造」である. すなわち, 「非有界」であり
「コーシー列は必ず収束する」ということを示している.
もっとざっくり言ってしまうと, 「実数は無限に大きい数が存在し」「実数は連続である」という構造を持っている.
「順序」は言わずもがな「大小関係」のことである. これもひとつの「構造」である.
最後の「体」は「足し算・引き算・掛け算・割り算が自由にできる」という構造のことである.
実はこういった4種類の性質が同時に満たされ両立する対象が「同型を除いて一意に定まる」ことが知られている.
「同型を除いて」というのは, 直感的には「モノの名前の付け方によらず元同士の関係性にだけ着目すると同じ構造を持っている」という意味である. つまり, 実数の数の名前の付け方はいろいろあってもいい――例えば, 普通は0とか1とかπとか名前がついている数字に対して, 代わりにZeroとかOneとかpiとかの文字列で表現するとか,
「セブンの息子」「サイタマ」「暗黒」などと呼称してもよい――が「実数」を特徴づける「構造」は一種類しかないということである.
つまるところ「人々が漠然とイメージする実数とかいう数直線を区切るための数」みたいな認識に数学者はあまり興味はなくその「構造」にのみ着目し考えたいのである.
さて, 実は世の中には似たような「構造」というものがあふれている.
例えば, 「体」という構造が出てきたが, 「複素数」も「体」の一種である. しかし, 「実数」と「複素数」は違う対象であるのはすぐにお分かりいただけると思う.
だが, 「体」として同じ構造を持っているがゆえに共通点も多い. たとえば, 多くの因数分解の公式が共通して扱えることが挙げられる.
モノ同士の関係である「構造」を見ているがゆえに, 同じ構造を持っているものに対してはそのまま――個々のモノの性質が何であれ――同じ議論を適用できる. つまりある一つの構造を見ることはその「構造」を持つ無数の対象を見ることになるのである.
さて, このような「数学は『構造』を探求している」とする立場を「構造主義」と言い,
こういった思想はフランスの数学者ニコラ・ブルバキに端を発する. 彼は「構造」を「位相構造」「代数構造」「順序構造」に分類しそれぞれの抽象的構造での議論を組み合わせて具体的なモノの性質を体系的にあぶりだすという体裁の『数学原論』を著した人物である.
彼の発想は「圏論」のゆりかごにもなったのだが――圏論では「同型」という概念が非常に大事になるし, そもそも発想が構造主義をゴリゴリ推し進めたもののように見える――その『数学原論』のせいで「圏論」を生み出し取り入れることができなかったという悲劇も起きていたりする.
何はともあれ, 「数学とは『構造』を探求する学問である」と考えることによって,
私は自分の足元がしっかりとした土台になったと感じ, 「数学」がより楽しくなったことを覚えている.
とはいえ, もっとより良い立場があるかもしれないので, 「こういう立場もあるよ」というものがあれば教えていただけると幸いである.
以上, ある日曜数学者の戯言でした.
参考文献
- 作者: スチュワートシャピロ,Stewart Shapiro,金子洋之
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/01
- メディア: 単行本
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今少しづつ読んでいる. 「数学の哲学」の入門書のようなもの.
ただ, この本を手に入れる前から「構造」を見ているという立場を知っていたような気がするのだが, どこで知ったのかは覚えていない. たぶん, K大のK先生に聞いたのだと思う.
この記事は日曜数学 Advent Calendar 2015 - Adventarの4日目の記事です.
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日曜数学っぽい誰でも気軽にチャレンジできそうな話題の記事でした. こういうのでいいんだよこういうので.
次: @Hiroyuki Koike
掛け算を知らなくても、12×23が線引きと足し算だけで出来てしまう方法
アメリカ式の掛け算のひっ算のやり方の話ですかね? ワクワク.
追記 2015.12.5
タイトルに違和感を感じたため編集しました.
あと, 読み返していてすごくわかりづらいと感じたので気が向けば, この記事の内容をもう少し掘り下げた改良版を書くかもしれないです.